巻頭言

愈々 朝鮮の戦争も持久戦の形となって来た。然し斯うなると共産軍の方は、歩が悪く苦戦となろう、といっても此儘お終いにもならず、今後の迂余曲折(ウヨキョクセツ)は仲々見透しがつかないであろう。何しろ背後にはソ聯が控えているし、中共と雖もまだまだ相当の力を貯えていようからで、ここ暫くは流石のソ聯も歯ぎしりし乍らも、大いに準備を充実しなければなるまい。そうしておいて第二の段階を待って、米側の弱点に注視を怠らず、隙あらば何等かの手を打つであろう事は想像に難くはあるまい。処が米国は米国で無限に等しい富と、驚くべき生産力を最大限に発揮して、万全の準備を進めつつあるので、此状態が長く続くとすれば、ソ聯よりも米の方が段々プラスとなるのは言う迄もなかろう。そうなるとクレムリンとしても気が気じゃあるまい。何とかして追越さなければ、マラソンの敗者となるに決っている、という訳で今後のクレムリンの執るべき策略こそ見物であり、どう出るかは大きな興味といってもよかろう。

処が日本は、今後どうなるかという事である。それに就て近頃の中共軍の驚くべき損害は、屡々報じられている通りとすれば、共産軍のマイナスは予想外に大きいものがあろう。斯うなるとどうしても焦りが出たがる、焦りが出たが最後無理をする事になる。としたら軍隊の補給や軍資金を集めるにしても、国民を苦しめなければなるまいから、民心は益々離れるであろう。而も油断のならないのは彼の国民軍の動静である。長い間米国の援助を期待していた蒋主席も、漸く或程度の諒解を得たらしいので、今度は極く慎重な態度を以て準備を進めつつあるようだから、若し中共が弱ったと見たら、忽ち進撃を開始するのは間違いあるまい。そうなると敵としては小さい乍らも大きな米の脅威を受けつつ、二面作戦となるから下手をすると大事になるかも知れない。其結果中国全土は戦乱の巷となるか予断は許さないであろう。而も米国は満洲爆撃の準備さへ出来ていると外電は報じている。

然し乍ら、右の推移を対岸の火災視しているとしたら、日本は危険千万である。何となれば中共が朝鮮の失敗を償ふべく、或は日本に事を起そうとする肚があるかも知れない、その表われとして数万の日本人に、本土撹乱の準備教育を施しているそうで、本年五、六月頃には卒業の段取との新聞記事もある位だ。としたら其時以後は大いに警戒を要すべき事態となろう。此様な訳であるから、程度はまだ分らないとしても、日本も何時火の粉が飛んでくるか知れないので、充分覚悟を要すべきであろう。

右を裏書する如く、此文をかき終った今、ソ聯は日本の俘虜(フリョ)に共産教育を施した者数万が千島に集結し、何時北海道へ侵入するかも知れないという状勢で、その為か米の洲兵二個師が、急遽北海道の防備、其他に配分すべく派遣したというニュースであるが、漸次日本も油断のならぬ状勢が迫りつつある事は注意しなければならない。

(地上天国二十二号 昭和二十六年三月二十五日)