薬効短見論

よく新聞紙上などに、何々病気に卓効ある新発見の薬剤が出来たといって医学の進歩を誇称するが、之は大いに注意の要がある。何となれば薬剤の効果は如何に顕著であっても短期間では信用出来ない。どうしても数ケ月から二、三年位の間治癒状態を眺めてからでなくては安心出来ない。厳密にいえば少くとも十年以上の成績を見るべきで今一層厳密にいえばそれでも足りない。本当からいえば数十年の長い実績を見てからで初めて安心出来るのである。現に私は三十数年以前歯痛を治すべく使用した薬毒が今以て残存し若干の苦痛が残っているのに見て明かである。

以上によって見ても、薬剤の効果なるものは一時的で直に有頂点になるのは甚だ軽率である。言う迄もなく尊い人命を扱う目的である以上、慎重にも慎重を持すべきである。滑稽なのは先年文化映画で見た事であるが、脚の萎えた鶏にオリザニンの注射をするや、見てる前で歩き出すので、見た人は成程オリザニンは脚気に利くと思うのであるが、事実は終日を経れば本の木阿彌となるのは必定である。右の如く薬剤の効果なるものは一時的で、時を経て必ずその反動が起り、而もその薬毒は次の病源となるという事である。此意味に於て新薬の著効を吹聴する事は、薬業者の金儲けの手伝以外何物でもないという結果となるのである。故に此点に目覚めない限り、真の医学の確立は不可能である。

真の医学とは薬剤を些かも使用せず、人間自体の治病良能力を増進させる事でそれ以外根治的効果は得られる筈のない事を警告するのである。

(救世六十一号 昭和二十五年五月六日)