睡眠不足が結核の原因となるといふ事は、何等意味をなさない解釈である事を述べてみよう。何故医学は右の如く誤ったかといふ事を想像してみるに過労と同一の考へによるのであらう。即ち再三述べた如く、人体は運動によって浄化熱が発生するものであるから、睡眠といふ安静時より、覚醒時の活動時間が長い程、より浄化作用が発生し易いのは当然である。此意味に於て、医学の説は逆である事を知るであらう。
此例として最も適切な事がある。それは花柳界に於ける人達である。此社会の人には結核が最も少いといふ事を、医家はよく曰ふのである。然るに、あらゆる階級中、此社会の人達ほど睡眠不足である事は恐らく他にないであらう。是等によってみても、睡眠不足が結核の原因にならない訳が知らるるのである。
又結核の多いと謂はるる学生に就てみるに学生は割合、夜の勉学と早朝通学の為とによって確かに睡眠は不足してゐる。且つ運動も強烈であるから、両々相俟って浄化作用が発生し易く、その為に微熱をみるので、医学は睡眠不足と過労が結核の原因であるとするに至ったと思ふのである。
又一般に朝は無熱又は低熱で、午後に到ると必ず多少の昂騰(コウトウ)をするが、之は右の理によるのである。然るに稀には朝高く午後に低い場合もあるが、それは解熱剤の為に狂ふからで、斯の如き場合解熱剤をやめれば、再び正当な状態に立戻るものである。
(結核の正体 昭和十八年十一月二十三日)