医者の遁辞

医師がいくら骨折っても、予期の効果が表はれない場合、決って言ふ言葉は「あなたの病気の治らないのは体質の為である」とか「千人に一人又は万人に一人しかない珍らしい病気」などというのである。成程そういふ患者も稀にはあるであろうが、そういう話をあまりに多く聞くので妙な感じがする。どうも巧妙な遁辞でないかとさへ思えるのである。

以前斯ういふ事を聞いた事がある。医師が「あなたの病気は私には判らない。従而請合う事も出来ないが、それでよければ診療してみよう。」といふ医師は名医であるそうである。成程斯様な医師こそ正直で良心的であるからである。処が大抵の医師はなかなか病気が判らないとは言はない。尤もらしい理屈をつけて判ったらしい顔をする。といふ事はもしありのまんまを言ったら其医師を信用しない事になるから、医業は成立たない以上やむを得ないともいえる。考えてみればお医者さんも難しい職業である。いつもいふ如く誤っている医学であるから、いくら一生懸命やっても思うように治る筈がないから、右の様な事になるので一面尊敬され乍ら、一面怨まれるといふのが実情であらう。

之に就て以前某医博の述懐談を聞いた事がある。例えば今日は某患者の家に行くが、無論悪化してゐるに違いないから、何と説明したら本人も家族も納得するだらうかと考える。又死亡の場合、如何なる原因によるかという理由を作らなければならない。といふ事が往々にあるので、之が一番苦労の種であるといふので、成程と思った訳である。

(救世四十九号 昭和二十五年二月十一日)