寿命が延びた理由

近来人間の寿命が延びたといって、この原因を医学の進歩としているが、これは大変な誤りである事をかいてみよう。それは何かというと、漢方薬と西洋薬との関係にある。即ちこれまでの日本人が短命であったのは漢方薬使用の為であって、誰も知る通り漢方薬なるものは量を非常に多くのまなければ効かないとされているからである。処が近来に至って漢方薬は殆んど影を没し、普通薬といえば洋薬を指すようになった。何しろ洋薬は毒分としては漢薬と大差はないが、量が非常に少い為害も少く、これが寿命の延びた理由の一つであって、歴史的にみても分る通り、日本に於ても上代は普通百歳以上であったものが、紀元千百二十八年雄略天皇頃、支那文化と共に漢方薬も渡来し、その頃から病人らしい病人が出来ると共に、漸次寿齢も短かくなったのである。

今一つの理由は近来薬学の進歩によって、浄化停止の為の薬毒の力が強くなった割に、副作用の現われ方が延びたからである。その為浄化と浄化停止との摩擦が余程緩和された事と、今一つは最近の薬の成分が今までとは全然異った、即ち抗生物質の発見で、これが大いに効いた訳である。というのは医師も経験者もよく知っている通り、何程効く薬でも一つものを長く続けていると免疫性になり、漸次効かなくなる。そこで薬を変えると一時よく効くのと同様であって、抗生薬を続けるとしたら何れは元も木阿彌となるのは勿論である。というように薬効なるものは或限度があるから、治っても安心は出来ない。つまり根治とはならないからである。何よりも今日病気を有ち乍ら、どうかこうか働いている人が非常に多くなった事実である。それは前記の如く病の一時抑えが、今までよりも期間が延長した為で、これを進歩と錯覚したのである。従って若くして老人のような消極的健康者が増え、元気溌剌たる人間が段々減るのである。この例として近来の英、仏等の民族がそうである。処がこの理を知らない我国の当局は、矢鱈に医学衛生を奨励し、無理をするな、大切にせよ等と注意を怠らないのは、健康が低下したからである事は、これで分るであろう。

(栄光二百三十四号 昭和二十八年十一月十一日)