二○、腫物とその切開に就て

腫物には、瘍疔(ヨウチョウ)や其他結核性等種々あるが、大体は同一と見做して可いのである。それは腫物のすべては浄化作用によって、体内の不純物が毒血や膿汁となって一旦皮下に集溜し、腫脹し、皮膚を破って排泄せらるるのであるから、全く生理的自然作用といふべきものである以上、放任しておけば、順調に治癒するのである。然し乍ら、右の過程は多くは激痛を伴ふものであるから、患者は何等かの方法を施さねば居られないのである。本療法によれば二三回の施術によって、如何なる痛苦と雖も解消するので、患者は驚きと喜びを禁じ得ないのである。故に、相当大きな腫物であって盛んに膿汁を排泄するに拘はらず、些かの痛苦もないので、不思議に思ふのである。

そうして茲に注意すべきは、腫物に対し切開手術を行ふ場合、折角集溜しつつあった膿汁は集溜運動を休めるのである。切開でなくも針で皮膚を破っただけでも集溜は停止さるるのである。其結果は全部の膿血が排泄されずに一旦治癒するのであるが、勿論残存膿血がある以上、其附近に再腫物が出来るのである。之は幾多の経験によって鉄則といってもいいのである。故に腫物の場合、飽迄自然的に、聊かのメスや鍼も用ひぬやう注意すべきであって、勿論冷す事も温める事も、膏薬を使用する事も不可である。

世間よく、腫物を散らすといふが、之は、誤りであって散るのではなく押込めるのである。折角外部へ排泄されんとした膿血を還元させる訳であるから、病気治癒ではなく、その反対である事を知るべきである。

(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)