二一、小児病

最後に、小児に特有な病気を概略説明してみよう。それは先づ疫痢、麻疹(ハシカ)、百日咳、肺炎、喘息、脱腸、小児麻痺、ヂフテリヤを重なるものとし、其他種々の病気がある。

疫痢は、小児に最も多く、最も恐るべき病気とされてゐる。今迄何等異状のなかったものが、突如として元気喪失し、盛んに欠伸(アクビ)をなし、又は眠がり、眼に力がなく、食欲も皆無となり、多少の発熱もあって嘔吐があれば、先づ疫痢と見做して差支へないのである。そうして重症に於ては、頻繁なる嘔吐、痙攣、眼球の引吊り等があって、早きは拾数時間にして生命を落すのであるから恐ろしいのである。そうして此病気の原因は、急激な浄化作用であって、その毒素は最初胃に集溜すると共に脳を犯すのである。幸ひ生命を取止むるとして、一二日を経て、下痢によって毒素が排泄さるるのであるが、下痢が起れば最早生命の危険はないと思っていいのである。医療に於ては、近来注射療法を重に行ふが之は成績頗る悪しく、恐らく九十パーセント以上は結果不良であらう。而も、最も不可である事は、発病するや直ちに箆麻子油(ヒマシユ)を、服用さす事である。何となれば、毒素が胃中にある時服用させても、箆麻子油は、右の毒素をそのままにして通過し、腸に入って腸内の残存物及び宿便を排除するに過ぎないからであると共に、不自然な手段によって腸を害するからである。

私が治療時代、疫痢は例外なくその悉くが全治したのである。而も施術は一二回であるから、その日又は翌日は快癒し、平常と異ならないまでになるので、その速かなる偉効に近親者は驚歎するのである。然るに其際、箆麻子油の服用又は注射をしたものは、それだけ治癒が後れるのである。そうして、本治療に於ても、発病後半日以内ならば必ず治癒するが、拾時間以上を経たものは治癒困難な場合がある。

(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)