水稲自然農法の研究調査と批判

農林省青森統計調査事務所O出張所長 農林技官 K・S

一、調査箇所 青森県下北郡O町

一、耕作者 H・K

一、経営面積 一町一反歩 遠野一号九反 赤毛モチ二反

一、品種 遠野一号(早生)粳米 赤毛モチ(早生)糯米

一、浸種期 四月八日―四月二二日(一五日間)

一、播種期 四月二五日(通し普通水苗代)

一、播種量 五合―六合(二坪当り)

一、施肥量 苗代は秋期、本田は田打前、苗代及び本田共に「稲ワラ」細断せるもの七〇貫目―八〇貫目(反当り)を適当の水を注加して湿気を与え、醗酵して白味を帯びた程度のものを耕起前に施用せるのみ

一、田植期 六月五日―六月八日

一、株数 一〇〇―一〇五株(二坪当り)

一、株の本数 五―七本

一、一番除草期 六月二〇日―六月二四日

一、二番除草期 七月七日―七月一〇日

一、三番除草期 七月二五日―七月二九日(軽く)

一、八月二五日現在作況状態

(1)草丈 二尺二寸―二尺六寸

(2)一株の穂数 二二本(二〇株の平均)

(3)一穂の粒数 一五〇粒内外(最高穂)(二〇株の平均)

(4)出穂状況 八〇%の出穂にして病虫害の被害なし

一、九月三〇日現在坪刈状況

(1)坪刈期日及時刻 昭和二六年九月三〇日午後一時

(2)天候 当日午前少雨 午後曇 前日雨

(3)坪刈器 円形坪刈器使用

(4)坪刈方法 中位箇所三カ所(二カ所一坪)

(5)坪刈者 研究調査者 K・S

(6)坪刈立会者 O町長 I・S氏 外一名
 O町農業委員会長 N・R氏 外一名

(7)坪刈株数 一〇〇―一〇五株(二坪当り)平均一〇二株

(8)未調製生籾重
 遠野一号 赤毛モチ
 (一坪当り)五五〇匁 六〇〇匁
 (反当り)一六五貫 一八〇貫

(9)完熟期
 〃 〃
 一〇月一日 一〇月六日

(10)未調製乾燥籾重
 〃 〃
 (〃)三六七匁 三九三匁
 (〃)一一〇貫 一一八貫

(11)調製籾重
 〃 〃
 (〃)三六〇匁 三七七匁
 (〃)一〇八貫 一一三貫一〇〇匁

(12)粃重
 〃 〃
 (〃)三匁 六匁
 (〃)九〇〇匁 一貫八〇〇匁

(13)トーミ失重
 〃 〃
 (〃)四匁 一〇匁
 (〃)一貫二〇〇匁 三貫

(14)調製容量
 〃 〃
 (一坪当り)一升五合 一升八合
 (反当り)四石五斗 五石〇斗四升

(15)調製籾一升重
 〃 〃
 二八〇匁 二四〇匁
 精選籾一升重
 遠野一号 三〇〇匁
 赤毛モチ 二八〇匁

(16)品位
 〃 〃
 上ノ中 上ノ下(早刈のため青米少数混入す)

(17)反当り推定玄米容量
 〃 〃
 一石三斗二升 一石五斗一升

(18)反当り推定玄米重量
 〃 〃
 八七貫 九六貫三三〇匁

(19)食味
 〃 〃
 良 粘力強

大事な特徴は

(1)根が長く且つ張っていること(有肥栽培の二倍以上)

(2)三番除草は不必要 自然農法は前項根の発達により成育するものなれば、三番除草は反って根を損ずるため生育の妨げとなる。

付記

一、年次反当り収量状況

昭和二三年 一石三斗(化学肥料施用最終年)

昭和二四年 一石四斗(自然農法に拠る)

昭和二五年 一石八斗(自然農法に拠る)

昭和二六年 二石三斗(自然農法に拠る)

(註)斗未満を切捨

一、土壌 黒色壌土(泥炭に近い)

一、排水 稍々不良

一、用水 充分ならざるも水温中位なり

一、三カ年化学肥料を全然使用しない為(肥料代、農薬代皆無)土壌は生々としてミミズ、根菌、ペニシリューム黴の棲育旺盛にして増産、上品位、上食味、健康食となるものと思考す。注目すべきは、『Pay・Dirt(黄金の土)』の著者、J・I・ロデール氏の農法に稍々類似するは注目に値する。

自然農法では化学肥料の施用は反って地力を減退せしめ、纔ては不毛の地と化する。いわば「農地に死刑を宣告するも等しい大罪」として居る様です。

自分の研究調査でいえば土壌は無機物で無く生きて大いに活動して居るもので、バクテリヤ、放射状菌、カビ酵母、原始動物、藻物、その他、微生物が豊富にいる。この内動物は原始動物ばかりで、その他は総て微生物である。これらの下等動植物が群生して土壌の生物学的生活を営んでいるのである。(中略)

即ちうまく治った小さい社会が存在する様である。この社会を好ましくさせるには次の条件を必要とする。(中略)

一、十分な空気の流通が必要である。(中略)

二、湿気が必要である。(中略)

以上により、強力な化合物が数十万の農民の味方を殺していることは疑問の無い処であろう。(未完)

昭和二六年一一月一五日

自然農法調査研究者(三カ年)

二、

根菌

土壌バクテリヤとミミズが土壌の肥沃度を増し、これを維持する作業を述べたが、植物の生育の第三要素は土壌中に住む微細な細菌による貢献である。

過去の生物学者は植物の根部が微細な細菌で侵されていることに着目したが、普通これ等は有害であると考えられた。併し近世、土壌生物科学者はこの方面の苦しい探究と試験研究の結果、これ等の細菌は宿主に対して珍らしい方法で援助し、その安全な生活に欠くことの出来ないものであることを発見したと論じている。

ガンヌング博士は、著書『植物教科書』でこれ等の作用を次の様に述べている。或る小形の細菌で多くの植物は腐植質の多い処に育つものの根の先に接して発達し、菌糸を根の周囲に絡ませ根毛を置換える。根菌はその名の現わす様に水と無機質の分解で分離した可溶性有機物を吸収することが信じられるのである。

ハワード氏はその著書『農業の鉄則』に次のことを述べている。根菌の提携は肥沃な土壌――腐植質に富む土壌――と作物とを直接に結ぶ生きている橋であり、直ぐ使用出来る食糧を土壌から植物へ運ぶものである。この提携が植物の緑葉の作用に如何に影響するかは現在科学の研究すべき最も興味ある問題である。

バルフォワー夫人は、ハワード氏の研究を分析して、「堆肥で作った作物は常に多量の根菌の発生を見て、化学肥料で造ったものと著しい対照を示した」といっている。

数年前フランスの葡萄生産地帯を旅行中ハワード氏は中央アジアに見られる様に強勢な葡萄樹を探した。そこの女主人に聞き質した処、其処では全然化学肥料を施した事がなく、葡萄酒の品質も評判が良いとのことであった。彼はその根を調べて根菌の提携を発見した。

尚彼は大規模な堆肥農法を各作物に対して研究して、農家に又農事試験場等に根菌の価値のあることと、作物との関係の研究が必要であると論及している。

ペニシリューム黴

土壌の微生物の過去の活動や生活史については不明であるが、根菌の一種にペニシリューム黴がある。約一五年前英国の科学者フレミング博士が偶然のことから発見したもので、バクテリヤの培養基の中にこの黴が入り込んだ処、その周囲にはっきり空所が出来た。彼の好奇心が動いて研究を進めた結果、ペニシリンの発見になったのである。驚くべき力のある土壌微生物から分泌されたものである。

バルフォワー夫人はその著『生きている土壌』で多くの土壌細菌は植物に有害な土壌中の原始動物を襲って喰うことを述べている。「彼等はネマトーダ(腺虫)を喰べる種類の多くは菌糸で罠又は包をつくり、又粘着物を分泌している。腺虫が包の中に入るとこれを包み、又暴れても捕えておくもので時に二時間もこれが続くことがある」と述べている。仔豚が非常に腸炎の下痢にかかりやすいが、腐植質の多い芝土を与えると全治すると、又野鳥が農場に激減した理由は化学肥料が多く施され薬剤の撒布が慣習になったためである。鳥は土壌をかいて虫の幼虫を捕えることが好きで、硫安を施して土壌が酸性になった所を一度つついてみれば、彼らは間違った場所に来たことが直ぐ判って、緑の深い牧草地にとび去るであろう。然して農家は害虫から守ってくれる大切な仲間を失うと述べている。

科学者は土壌微生物が人の病気を治す偉大な力のあることを知って植物の病気を駆除するに微生物の研究を始めたと。

土壌の微生物集団には正と負の両要素が入組んだ関係になっていることが明にされた。土壌が正しい状態の場合は平均した状態で順調に生活が営まれ、まさに有益な微生物が有害なものをおさえるのであると。化学に頼った科学者が土壌微生物の利用に成功しつつあることは心強いと述べている。大分横道に入り過ぎた感あり、研究の自然農法の原理とその説を研究調査せん。

自然農法の原理

自然農法の原理として論者は土の偉力を発揮させることであると説いてある。真理も多分にあると思考する。而して又今日迄の人間は土の本質を知らなかった。否知らせなかったと説いてある。その観念が肥料を使用することとなり、何時しか肥料に頼らなければならない様になってしまったと説いてある。

更に近年、年毎に自然農耕者が増加し、収穫に於ても至る処驚異的成果を上げているが、併し今の処信者の範囲を出ていないようであるが、漸次各地に於ても未信者の間に共鳴者続出し本栽培は非常な勢で激増しつつあるようである。

然して論者が肥料迷信打破運動と言っている一応の真理もある。人肥、金肥は一切使用せず、堆肥のみの栽培であるのが前述のロデール氏の著書(黄金の土)の説に類似している。而して自然農法のために堆肥の原料である枯草、枯葉は自然物として使用するが、金肥(化学肥料)人肥、牛馬糞尿、鶏糞等の廐肥、魚肥、木灰も異端自然物として使用せぬ処に又ロデール氏との説に一寸異なる処あるものとす。

更に自然農耕者は、抑々森羅万象如何なるものと雖も大自然の恩恵に浴さぬものはない。即ち火水土の「三元素」とは火の酸素、水の水素、土の窒素であって如何なる農作物と雖もこの三元素に外れるものはないと説いてある。

更に「大自然の法則」を無視したと述べている。又現在の農耕法は進歩的でなく退歩的だと説く処又ロデール氏の説に稍々根元が類似している。

更に火、水、土の三元素が農作物を生育させる原動力としたら日当りをよくし、水を充分供給し、浄土に栽培するとすれば大なる成果を上ぐること確実であり、土の本質を未知のため不良果と説いてある。

更に肥料の逆効果として一時は相当の効果があるが長時施用として逆作用の起るを、即ち作物は土の養分を吸うべき本来の性能が弱り、肥料を養分としなければならぬ様変質してしまうのである。人間の麻薬中毒に譬えれば一番よく判る。人間が最初麻薬を用いるや、一時は快感を覚えたり、頭脳明晰になったりするのでその味が忘れられず、漸次深みに入り抜き差しならぬ様になる。結果は麻薬中毒即肥料中毒となるとしてある。これ又一応の真理もある。

自分は昭和二四年の春、O町自然農耕者H氏の苗代時代より一つの興味を以って、公職以外を利用して時々研究調査して居ったが、出穂時代には葉色が悪く苗は短く他田より著しく見劣りしておったが、葉茎の割に根部が長太いのを見た。八月に入って著しく成長九月に入って普通以上となり、一〇月に入って良好となる成熟を見て全く意外であった。収穫も予想より多く、品質食味も良好であった。又「コク」釜増は増なり。モチ米は粘力強力なことも亦意外であった。

又自然農耕者は言う。年々肥毒によって土が弱り荒土となると。これ又一応の真理がある。又更に自然肥料実施についての説明を聞くと、稲作に対しては、「稲ワラ」を細切りにしてよく土と捏ね混ぜるので、これは土を温めるためである。

又畑土の方は枯葉、枯草の葉筋が軟くなる位に腐蝕させ、土によく混ぜるのである。この理由は土が固まっていると作物の根伸び不良となるので、固まらない様にするためとしてある。

又理想としては浅根の作物は畑土に草葉の堆肥を混ぜるだけでいいが、深根のものには特に畑土二尺位下方に木の葉の堆肥の床を造るがいいとしてある。

又世人は堆肥の肥価を過大視するが、第一は土を固めない、第二は土を温める、第三は旱害を防止するためである。而して、又自然農法の根本は「土そのものを生かすことである。土を生かすということは、土壌に人為肥料の如き不純物を用いず、どこまでも清浄を保つのである。そうすれば、土壌は邪魔物がないから、本来の性能を充分発揮し得る」と述べている。又特記として、自然農耕の「桑」の葉で養蚕をすると蚕は病に罹らず、糸質強く、光沢よく更に増産確実であると付言している。

以上自然農耕者の説と実際研究調査の結果は米人ロデール氏の論旨と一脈の結合ある様に思考する。

昭和二六年一一月二八日記(未完)