脚気

此病気は、誰も知る如く、脚及び手、口脣等の麻痺である。特に脚部に於ては、膝から下の内側である。手は、掌の拇指の付根の辺である。口脣は下脣である。之が真症の脚気であって、非脚気は、脚気と誤診さるる事も多いのである。例へば、膝のガクガクするとか、脚の重いとか、力が無いとかいふ如き症状は、脚気ではないのである。

原因は、真症の脚気に於ては医学で唱ふる如く、全く白米中毒であるから、近来の如く、七分搗又は半搗米なら起らないのである。近来脚気の激減するのは之の証拠である。又西洋の脚気のないのにみても瞭かである。

前述の脚気に非ざる脚気、之は如何にといふに、腎臓の尿毒が脚部へ下流して溜結する場合と、腹膜に集溜せる尿毒が下流する場合と、注射等の薬毒が脚部に溜結する場合等であって、それが浄化作用の為の微熱によって重倦く、ガクガクやフラフラは、毒血が筋肉の運動を妨げるからである。
婦人の血脚気は、全然別の原因にて、之は産後の古血が脚部、腰部、腹部等に移行するのである。尚詳細は婦人病の項に述べる事とする。

(医学試稿 昭和十四年)