先づ凡ゆる疾患中、最も多きは感冒であらふ。然し、今日迄医学上感冒の原因は、今以て不明とされてゐる。然し、私の発見によれば、此病原位はっきりしてゐるものはないと思ふのである。
抑々、人体の浄化作用は、二六時中一秒時と雖も浄化作用が行はれつつある。そうして、その浄化作用は如何なる順序、如何なる経過を執るかといふと、それは、身体の各部に汚濁即ち病毒が集結するのである。それで集溜凝結する局所は、大体極ってゐるのであるが、特に神経を働かせる個所に集溜するものである。その関係上、頸部の周囲、及び頭部、両肩部等を主なるものとし、肋骨、骨盤、腎臓、股間淋巴腺(特に右が八、九十パーセント)稀には、胸部を中心とする腹部、肩胛骨、横隔膜の下辺等である。そうして之等の局所に、病毒(此病毒に就ては後項に詳細説明すべし)が集溜し、或程度固結したる時浄化作用が起るので、其際一個所又は数個所発る事もある。それはその固結を排泄し易からしむる為、溶解作用が行はれるのである。そうして、溶解されたる毒素は液体となって喀痰又は鼻汁、稀には下痢、嘔吐等によって外部へ出づるのである。其際、咳嗽は喀痰を吸引排泄するポンプ作用の如きものである。嚔も鼻汁を吸出するポンプ作用である。此理によって感冒は何等の処置を施さず、放任しておけば、短期間によく自然治癒をされるのである。そうして斯の如く自然治癒によって、感冒を何回も経過するに於て、毒素は漸次減少し、つひに全く感冒に罹らぬ健康体になり得るのである。右の理由によって一回毎に軽減する事実は、前述の理論を裏書するのである。
然るに、今日迄此理論を逆解せる為、熱に対する氷冷、湿布、解熱法等、極力浄化作用を留めんとするので、従而、治癒状態迄の経過が長く、何回も繰返すのである。故に、感冒とは神が与へた最も簡単なる浄化作用であって、恐るる所か大に感謝するのが本当である。昔から風邪は万病の因といふが、実は私からいへば“風邪は万病を遁るる因”といひたいのである。
(医学試稿 昭和十四年)