病気に対する手当としては、各種の方法がある。先づ、氷冷法、罨法、吸入、湿布、芥子泥湿布等である。それ等を簡単に説明してみる。
一、氷冷法は最も不可である。高熱と雖も氷冷しないに限る。何となれば、患部を氷 冷する時は、自然治癒作用は、停止されて了ふからである。一例を挙ぐれば、中耳 炎の場合、中耳炎は膿汁が排泄されよふとして、中耳内に侵出し、それより外部に 出でんとする。其為の痛みと高熱であるから、此場合患部を氷冷すれば、膿は中耳 に向はずして、方向転換をするのである。それは後脳へ移行し、脳膜炎を起すので ある。中耳炎丈で済むべきを、脳膜炎を併発させるといふ、それは氷冷するからで ある。
又、盲腸炎を氷冷するとする。氷冷しなければ、高熱に依て膿溜は解溶され、便 となって排泄し、治癒されるのであるが、氷冷の為に其作用は停止されるから、治 癒が非常に拗れるのである。それが為に手術を要する様な結果を、招来する事にな るのである。
他の疾患に於ても、大同小異であるから略する事とするが、唯、高熱によって頭 痛の場合、水枕位は差支えないのである。
一、罨法
凡ゆる病気に対し、温めるといふ事は、多少の効果は必ずあるもので、従而、害 はないのである。腫物、歯痛等に応用すれば治癒を早める事は確かである。それ は、膿溜を解溶すべき、発熱に加えての人工熱であるから、自然治癒を援助する訳 である。
一、吸入
之は、治療上効果もなく、さりとて害も無いのであるが、手数を要するだけ無駄 であるから、先づ応用しない方が可いであらふ。特に小児に於てそうである。
一、湿布
之は反って害があるのである。前述の如く、治療上温めるのはよく、冷すのは悪 いのであるから、縦令、熱湯湿布をするとも、暖い時間より冷たい時間が多いから 不可である。且つ、薬剤を使用するに於ては、反って害があるのである。何となれ ば、薬剤が皮膚から滲透すればするだけ、それは膿汁の如き、不純物と化するから である。
一、芥子泥湿布
之は、急場の場合、多少の効果はあるものであるから、我療法を知らない人に は、応用しても可いのである。
(新日本医術書 昭和十一年四月十三日)