標題の如き新兵器が、最近日本に於て生れた。此兵器こそは人類史上空前の発見にして、此新兵器神秘光線が出るとすれば、恐らく如何なる大戦争と雖も、余り長からざる期間の中に終結を告ぐるの余儀なきに到るであらう。何となれば、此神秘光線の偉力は、彼の独逸のV一号又は二号に比して、数百倍の効果を発揮なし得るからである。即ち、敵の飛行機が此光線の放射圏内に入るや、搭乗者の脳神経に異常を来し、操縦技術に破綻を生じ正準さを欠く結果、敵の襲撃に対し抵抗力不能となるのである。又、襲撃に遭はざるとするも操縦不正化の為、墜落の危険増大は免れ得ないのである。そうしてその放射は、地上より上空に向って行ふのであるが、放射圏の達する高度は数万米に及び、圏の直経は高度になればなる程拡大するのである。仮に東京の上空全体を神秘光線に充填するとすれば、約千個の装置にて事足りるであらう。 そうして此新兵器の原理としては、全世界如何なる科学者と雖も、到底解釈どころか想像をすらもなし得ざる事を敢て断言するのである。何となれば、此原理は廿一世紀以後にならなければ、到達し得ないであらふ程の高度深遠なるものであるからである。然し乍ら、一応の概念的説明はなしおく必要があるであらうから、茲に開陳するのである。先づ之は一種の不可視光線に属する事は勿論であるが、それは現在迄に発達し得た最も高度の精密器械を以てするも、絶対捕捉する事は不可能である。勿論如何なる国家と雖も、新兵器の原理を公開するものはあるまいが、仮りに此神秘光線の原理を公開し詳細に説明すると雖も、現代文化の水準と余りに隔絶しゐる以上、如何なる学者と雖も、その片鱗をだも把握する事は困難であらう。而も、偶々把握し得るものありとするも、之を実際に活用し得べき技能と装置の困難さは全然不可能に属するのである。
そうして、此神秘光線放射装置の原料としては日本独特の資材にして、その生産の簡易なる事は数千個又は数万個と雖も一ケ月を出でずして作り得るのである。勿論、此兵器の性能実験は、凡ゆる方法を以て今日迄行はれたのであるが、その効果は予期以上であるといふ事だけは言ひ得るのである。右の如く実験成果は相当以前より確め得たのであるが、慎重を期し、その応用を今日まで延したのである。然るに、戦局の逾よ重大化に伴ひ、国家的応用の時期到れるを思ひ、着々各所に装置の運びとなったのである。従而、今後続々と日本全土は勿論、東亜全地域にまで及ぶ事によって、敵機が何千何万襲来すると雖も勝利は確実である。恐らく敵機の大半は基地に帰着する事は覚束ないであらう。先づ敵機百に対し味方機一を以て対戦するとも勝利を得るであらう。
以上の如き効果を、神秘光線が発揮し得るとすれば、此戦争は如何なる結果となるであらう。いふ迄もなく反枢軸国の大敗となる事は必定である。故に吾々としては、反枢軸国家全体の戦後処理案を、今から独逸を初め枢軸諸国と共に協議しおく必要も生ずるであらう。実に此新兵器こそ、戦争解決兵器といふ名称を附しても、敢て過言でない事を信ずるのである。次に此神秘光線の原理を、現代人の解釈なし得ると思惟する範囲に於て、一通りの説明をしてみよう。
(昭和二十年)