扁桃腺肥大症

扁桃腺の起った時に解熱法を行ふ。その為に膿が固結するのであります。頸部附近に水膿溜結の場合、解熱したり、電気をかけたりすると固まってしまふので、其為又隣部へ出来て段々殖える事がよくあるのであります。最初一個所脹れた場合に、放置しておけば、その一個所へ膿が集溜し、充分脹れてついにブラ下る位になって、そして小さな孔があいて、膿が出て綺麗に治るんであります。

以前、私が扱った患者で斯ういふのがありました。最初耳下腺附近に脹が出来たので、盛んに氷で冷した。すると、其部分は脹れ切れずに固まったので、病院へ入院した。すると今度は、反対の側の方へも腫が出来た。それをも氷で冷し、次々出来ては氷冷して、次から次へ出来た腫物を悉く固めてしまった。すると其為に膿が其部へ集溜されなくなるから、段々下の方へ溜るやうになって、終に肺気腫が起りそうになったのであります。医師は驚いて、生命が危険だといふので、切開して膿を出したが、それも一時小康を得ただけで今度は、外部へ集溜されなくなった膿は、止むなく内部即ち口内から咽喉部へ溜って、終に咽喉が塞がり、呼吸困難になって死んだのであります。

死の一ケ月ばかり前に私の所へ来たのでありますが、私の方でいくら溶いても「氷で固めてある為」と「衰弱の為」に浄化力が起らないので、どうする事も出来なかったのでありました。此患者など、最初から何等手当をせず、放任しておいたなら、順調に治って生命を完うしたらうに-と思って実に残念で堪らないと思ったのであります。

(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)