前項の如く悪の九分九厘に対して、善の一厘が現はれ、絶対神力を揮って既成文化を是正すると共に、新文化を打ち樹てる。早くいえば掌を反えすのである。之が今後に於ける神の経綸の骨子であって、其破天荒的企図は想像に絶するといってよかろう。之に就ては彼の旧約聖書創生記中にある禁断の木の実の寓話である。勿論之は比喩であって、エデンの園にゐたアダムとイブの物語は、実に深遠なる神の謎が秘められてゐる。それを追々説いてゆくが、之を読むに就ては全然白紙にならなければ、到底分りやうがないのである。言う迄もなく木の実を食ふ事によって悪の発生である。といふのは木の実とは薬の事であって、薬によって病気が作られ、病気によって悪が発生する。処が人類は紀元以前から、病気を治す目的として使ひ始めたのが彼の薬剤であって、禁断の木の実とは、何ぞ知らん此薬剤を曰ったものである。といふ訳を知ったなら何人も愕然として驚かない者はあるまい。ではそのやうな到底想像もつかない程の理由は何かといふと、之を説くとしたら理論と実際から徹底的に説かねばならないから、充分活眼を開いて見られん事である。
茲で曩に説いた如く、人間は霊と体とから成立ってをり、霊が主で体が従であるといふ原則も已に判ったであらうが、そのやうに悪の発生原は霊に発生した曇りであり、此曇りに元から憑依してゐた動物霊と、後から憑依した動物霊と相俟って、人間は動物的行為をさせられる。それが悪の行為である。早く言えば霊の曇り即悪である以上、悪を撲滅するには霊の曇りの解消である事は言う迄もない。処が曇りの因こそ薬剤であるから茲に大きな問題がある。勿論霊の曇りは濁血の移写で、濁血は薬剤が造るのであるから、人間薬剤さへ用ひなくなれば悪は発生しないのである。斯う判ってくると禁断の木の実、即ち薬剤こそ悪発生の根本である事が分るであらう。
茲で今一つの重要な事をかかねばならないが、之も曩に説いた如く文化の進歩促進の為の悪を作った薬は、他にも大きな役目をして来た事である。といふのは血液の濁りを排除すべき自然浄化作用である。勿論曇りが溜ると健康に影響し、人間本来の活動に支障を及ぼすからである。処が人智未発達の為、右の浄化作用による苦痛をマイナスに解して了ひ病気の苦痛を免れやうとし、薬を用ひはじめたのである。といふのは浄化作用停止には身体を弱らせる事であって、弱れば浄化作用も弱るから、それだけ苦痛は緩和される。それを病気が治る作用と錯覚したのである。といふ訳で抑々此誤りこそ、今日の如き苦悩に満ちた地獄世界を作った根本原因である。 右によってみても、薬といふものは其毒によって単に痛苦を軽減するだけのもので、治す力は聊かもない処か、其毒が病気の原因となるのであるから、其無智なる言うべき言葉はないのである。処が驚くべし此病気に対する盲目は、実は深い神の意図があったのである。
それを之から詳しくかいてみるが、先づ文化を発展させる上には二つの方法があった。其一は曩に説いた如く悪を作って善と闘はす事と、今一つは人間の健康を弱らす事である。前者は已に説いたから省くとして、後者に就て説明してみれば、先づ原始時代からの人間の歴史をみれば分る如く、最初はありのままの自然生活であって、衣食住に対しても殆んど獣と同様で、健康も体力もそうであったから常に山野を馳駆し、猛獣毒蛇やあらゆる動物と闘ったのは勿論で、之がその時代に於ける人間生活の全部といってもいいのである。そのやうに獣的暴力的であった行動は漸次其必要がなくなるに従ひ、今度は人間と人間との闘争が始まったと共に、漸次激しくなったのであるが、それらによって人智は大いに発達すると共に、長い年代を経て遂に文化を作り出すまでになったのである。このやうな訳で若し最初から闘争がなく平穏無事な生活としたら、人類は原始時代のままか幾分進歩した程度で、智識の発達は少なく、相変らず未開人的生活に甘んじてゐたであらう事は想像されるのである。
処が前記の如く禁断の木の実を食った事によって病が作られ悪が作られたのである。処が今日迄全然それに気が付かない為、今日の如く根強い薬剤迷信に陥ったのであるから、最も大きな過誤を続けて来たのである。而も一面原始人的健康であった人間は、前記の如く動物を征服し、生活の安全を得るに従ひ体力も弱ったと共に、智識は進んだので茲に平坦な道を作り、馬や牛に車を牽かせて歩行せずとも移動出来るやうになったのである。右は日本であるが、外国に於ては石炭を焚き、レールの上を走る汽車を考え出し、一層進んで現在の如き自動車、飛行機の如き素晴しい便利な交通機関を作り出すと共に、他面電気ラヂオ等の機械を作る事になったのである。尚又人間の不幸をより減らすべく社会の組織機構は固より、政治、経済、教育、道徳、芸術等、凡ゆる文化面に亘って学問を進歩させ巧妙な機関施設等を作り、それが進歩発達して、現在の如き文明社会を作ったのであるから、帰する処来るべき地上天国樹立の為の準備に外ならなかったのである。
以上の如く医学の根本は、人間の悪を作り健康を弱らす目的にあるので、予期の如く現在の如き世界が出来たのである。処が之以上進むとしたら、逆に人類破滅の危険に迄晒されるので、最早之以上の進歩は不可とし、茲に神は文明の大転換を行はんが為、私に対し真理を開示されたのであるから、之によって悪を或程度制約し、善主悪従の文明世界樹立の時となったのである。
(文明の創造 昭和二十七年)