凡ゆる病原が薬毒である事は、充分納得出来たであらうが、単に薬毒といっても、非常に多くの種類がある以上、それによる症状も自ら千差万別であるのは言う迄もない。それ等に就て詳しくかいてみよう。
先づ洋薬であるが、之にも服薬、注射、消毒薬、塗布薬等種類があるから、先づ服薬から取上げてみるが、之は昔から一番多く用ひられてをり、其種類も何千何万あるか、数へ切れない程あって、気が付いてみれば之等も可笑しいのである。何故なれば、如何なる病気と雖も、其原因は一つであって、其現はれ方の局部によって、種々なる病名が付くのであるから、本当から言へば、効く薬なら唯った一つでいい訳である。処が右の如く多数あるといふ事は、全く真に効く薬がないからである。そうして口から服む薬は、強すぎると口が荒れたり、中毒したりするから、大いに弱めたと言ひ条、何しろ一日数回で何日、何十何百日も服むとしたら、いくら少ない毒素でも相当の量に上るのである。そうして面白い事には洋薬による苦痛は鋭い痛み、痒み、高熱、麻痺等凡て強烈であるが、漢薬の苦痛は鈍痛、重懈さ、微熱等で緩徐的である。又疫痢に対する蓖麻子油とか、便秘に用ひるカスカラ錠とか、其他色々な新しい薬もあるが、成程一時は効くが結局は悪くなる。下剤も糞便処理の機能を弱らせるから、一層便秘する事になる。又下剤を服む、便秘するといふやうに鼬鼠ゴッコになり、遂に慢性便秘症となるのである。而も僅かづつでも其薬毒が溜る以上、他の新しい病原となるが、此為の病気は腎臓が多い。又腸を掃除するといって下剤を服ませるが、之なども実に馬鹿々々しい話で、掃除はチャンと腸自体が具合よくするのだから、余計な事をして妨害するからいい訳はないのである。言う迄もなく不潔不必要なものが溜れば、腸は下痢にして出すやうに出来てゐる。疫痢なども私の長い経験上、蓖麻子油を服まさない方が結果がいいのである。
茲で浣腸に就ても注意したいが、之も非常に悪い。ヤハリ之も下剤と同様、腸の活動を鈍らせるからである。考へてもみるがいい。糞便といふ汚物が溜れば、自然に肛門から出るやうに出来てゐる。それだのに外部から誘導して出すなどは、何たる反自然的行為であらうか、考へる迄もなく駄目に決ってゐる。又よく解熱手段として浣腸を行ふが、之は熱と糞便とは何等関係ない事を知らないからである。以前斯ういふ患者を扱った事がある。それは三歳の男児で、腹が太鼓のやうになってゐる。訊いてみると生れて早々から浣腸を続けて来たので、段々癖になり、浣腸をしなければ便が出ないやうになって了ったので、遂悪いと知りつつも、余り苦しがるので止める事が出来ないと言うので、私は医学の無智に呆れたのである。今一つは医学は便秘すると自家中毒を発すとよく言はれるが、之なども全然意味をなさない。医学は便が溜ると、便毒が身体中に廻るやうに想うのだらうが、実に滑稽である。便はどんなに溜っても便の袋以外に滲出するものではない。溜れば溜る程段々固くなるだけであるから、何程溜っても健康には些かも支障はないのである。私の経験から言っても、一、二ケ月位はザラで、ひどいのになると半ケ年も出ない者があったが何ともなかった。以前或婦人雑誌に出てゐたが、二ケ年もの人があったそうだが、何共なかったといふ事である。之で見ても便秘は心配ないのである。
次に、寒冒、結核、胃、腸等に関する薬剤は既に述べたが、其外脳に対する鎮静剤、点眼薬、含嗽薬、利尿剤、毒下し、温め薬、強壮剤、増血剤、風邪引かぬ薬、咳止、痛み止等々凡ゆる薬剤は、悉く病気増悪の原因となっても、病気を治し得るものは一つもないのである。それに就て種々な実例を示してみるが、先づ頭痛に用ひる鎮痛剤など、一時は一寸効果を見せるが、遂には癖になって、不知不識の裡に其余毒が溜り、種々な病原となる。又点眼薬は最も不可で、目星などでも固めて了ふから、反って治り難くなる。又世人は知らないが、点眼薬はトラホームの原因ともなるから注意すべきである。之は点眼薬にもよるが、事実は眼瞼の粘膜へ薬毒が滲透し、年月を経て発疹となって出ようとするからである。又悲しくもないのに常に涙の出る人は、点眼薬が時を経て涙に変化したものであるから、出るだけ出れは自然に治って了ふ。処が医学は涙嚢の故障などといふが、見当違ひも甚だしい。又目脂は前頭部の毒素又は眼の奥の浄化によって排泄されるものであるから非常にいいので、何よりも如何なる眼病でも目脂が出るやうになれば必ず治るのである。
次は鼻薬であるが、鼻薬の中、特に恐るべきはコカイン中毒である。よくコカインを吸ふ癖の人があるが、一時爽快なので止められなくなり、長い間に脳を冒して、夭折する人も少なくないが、特に芸能人に多いやうである。
次に含嗽薬であるが、之は極く稀薄な毒ではあるが、始終用ひてゐると、口内の粘膜に滲透し、毒素となって排泄する時、粘膜が荒れたり、加答児を起したり、舌がザラザラしたり、小さな腫物など出来たりするから廃めた方がいい。特に咽喉を使ふ芸能人には最も悪い。又一般水薬に就ても同じ事が言える。長い間にヤハリ粘膜から滲透した薬毒は右と同様になるが、薬が強い為悪性である。而も意外な事には舌癌も之が原因である。処が医学は薬で治そうとするから、病を追加する訳である。又薬入り歯磨なども、歯を弱める事甚だしいのである。
次は塗布薬であるが、之も仲々馬鹿にはならない。塗布薬の毒素が皮膚から滲透して、種々の病原となる事がよくある。以前斯ういふ患者があった。最初身体の一部に湿疹が出来た処、医師は悪性として強い塗布薬を塗ったので、段々拡がり二、三年の内には全身に及んで了った。それまで有名な病院に掛かってゐたが、もう駄目と曰はれ、私の所へやって来たのであるが、私は一目見て驚いたのは、身体中隙間もなく紫色になっており、処々に湿疹が崩れ、汁が流れてをり、痒みよりもそれを打消す痛みの方が酷いそうで、夜も碌々眠れないといふ始末なので、流石の私も見込ないとして断ったが、それから一、二ケ月後死んだそうである。又斯ういふ面白いのがあった。此患者は肩や背中が凝るので、有名な或膏薬を始終貼ってゐた処、長年に及んだので、膏薬の跡が背中一面幾何学的模様のやうになって了ひ、いくら洗っても落ちないといふ事であった。それは膏薬の薬毒が皮膚から滲透して、染めたやうになって了ったので、而も絶へず相当痛みがあるので、私も随分骨折ったが、余程強い毒と見へて、一年位で大体治ったが、高が膏薬などと思ふが、決して馬鹿にはならない事を知ったのである。
今一つ全然世人の気のつかない事がある。それは有名な仁丹で、此中毒も相当なもので、之は幾人もの例で知った事だが、仁丹常用者は消化機能が弱り、顔色も悪く病気に罹り易くなる。今日問題となってゐる麻薬中毒の軽いやうなものである。
茲で、薬毒中の王者ともいふべきものを一つかいてみるが、それは彼の駆黴剤としての六○六号、一名サルバルサンである。之は砒素剤が原料となってゐる位で、耳掻一杯で致死量となる程の劇毒であるから、浄化停止の力も強いので、梅毒の発疹などにはよく効く訳である。勿論浄化によって皮膚へ押出された発疹であるから、一度サルバルサンを注射するや、症状は忽ち引込むといふ訳で、一時は奇麗になるが根本的ではない。之は医学でもサルバルサンは一時的で、他の駆黴療法を併せ行はねばならないとしてゐる通りである。之に就て私は大発見をした。といふのはサルバルサンの薬毒は頭脳に上り易く、上ると意外にも精神病になる事が多いのである。すると医診は梅毒が脳に上ったと思うが、何ぞ知らん、実際はサルバルサンが脳を犯したのである。之は専門家諸君に於ても、此理を心得て充分研究されたら分る筈である。
次に、一般注射に就ての誤った点であるが、注射と雖も一時的浄化停止であるから、効力も一定期間だけであるが、副作用がなければ結構だが、其余毒は他の病原となるから厄介である。そうして近来伝染病に対し、それぞれの予防注射を懸命に行ってゐるが、遺憾乍ら伝染病の根原が全然不明であり、治す方法もないから、止むを得ないとしても、予期の効果は仲々得られ難いのである。処が我浄霊法によれば梅毒も伝染病も、至極簡単に治るのだから、之が一般に知れ渡ったとしたら、予防注射の必要などは全然なくなり、大いに助かるのである。茲で予防注射による弊害をかいてみるが、先づ予防注射による薬毒の悪影響が、最も明かに表はれるのは、膝から下に小さな腫物が出来る事である。之も放任しておけば、或程度腫れて自然に穴が穿き膿化した注射薬が出て治るのであるが、それを知らない医学は、塗布薬を用ひたり、切開したりするので長引く事になる。而も注射によっては、脱疽やひょう疽(ヒョウソ)の原因ともなり、指を切られる事さへある。而も運の悪い人は、それが因で生命に迄及ぶ事さへ往々ある。以前私はそういう患者を扱った事がある。四十歳位の人妻で、注射の薬毒が足首へ垂れて、腫物となった処、医療は切開したので仲々治らず、益々悪化し激痛も加はり、拡がってもゆくので、医師は足首と膝との中間を切断するより方法がないといふので躊躇してゐた処、私の話を聞き訪ねて来たのである。何故それ程悪化したかといふと、全く切開後使用した消毒薬の為である。
茲で、消毒薬に就て説明してみるが、之は薬毒中最も恐るべきものである。元来消毒薬とは殺菌力が非常に強いので、中毒を起し易く、而も手術の場合、直接筋肉に滲透するから、猶更影響も大きい訳である。故に之が為種々の病原となるので、此理と実際とを、医家は照し合してみて貰ひたいのである。右の例として、今も記憶にまざまざ残ってゐるものに斯ういうのがあった。七、八才の女児、珍しい病気との事で、その家へ招かれた処一目見て驚いたのは、患者は右側の唇から頬へかけて、鶏卵大位頬が欠損してゐて、歯茎まで丸見えである。勿論食物を口へ入れても出て了ふから、僅かに牛乳を流し込むやうにして、漸く生きてゐるといふ始末である。その原因を訊いてみて二度吃驚した。といふのは最初口辺に小豆粒位の腫物が出来たので、医師に診て貰ふと、之は水癌といふ非常に悪性なものだから、強い薬で焼いて了はなくてはいけないと言って、その様にした処、一週間で右の如く焼け切れたといふのである。察するに消毒薬ではないが余程強い薬であった為であらうが、手のつけやうがないので、私は断って帰ったが、それから一ケ月程経て死んだとの事であるが、之なども実に考へさせられるのである。
そうして、注射薬にしろ消毒薬にしろ、目方の重い軽いがあって、重い程下降し、最も重いのは膝から下、足の裏迄垂れて来て固まる。そうなると足の裏が痛くて地につけないで歩行困難となる。又薬によっては下降して膝から下に溜り、痺れるので脚気とよく間違へられる。其他神経痛、リョウマチスの原因も薬毒であるから、私は何よりも先づ薬毒の恐るべき事を、専門家に自覚させたいので、之だけでも人類に与へる福祉は、蓋し計り知れないものがあらう。
(文明の創造 昭和二十七年)