今の世の中で誰も一番困っているのは金詰りであろう。至る所金詰りの声が充満している。とすれば一体金詰りの原因は何であるかを知る事と、何時まで続くかという事とどうしたら解決出来るかという事と此点を誰も知りたいであろうから茲に説明してみよう。
先づ金詰りとは、いう迄もなく物の不足からで、不足するから値が上る、値が上るからその売買に金が多く要る事になる。ズンズン値が上るから騰(アガ)らない中に買溜しておこうとするから、仮需要によっていよいよ物が不足する、騰る、金が要るという鼬ゴッコでついに尨大な通貨発行となったので之がインフレの原因である。故に物が上るだけ通貨の発行高が増えるので通貨が物価を追い馳けている訳で、此趨勢で行くと金詰りは起らないが其代りインフレがどこまでも大きくなる。
そこでロッジ案によって紙幣発行を制限したから堪らない。今迄膨れ放題の物価は上がる事が出来なくなった。それが為通貨という袋一パイに拡がっていた物価の膨れと隙間のない程キッチリになった。それが金詰りである。いわばそれまで貨幣の方が物価に引ずられて来たのが、今度は逆で貨幣が物価を引ずるようになった訳で、斯うなっては、貨幣の袋は延びないから物価の方が縮まるより外に仕様がない事になるので、物価が縮まればそれだけ隙が出来る。隙が出来ただけ金詰りは緩和されるのである。従而、物価が縮まる事は下落であるから、今後は物価が下落するより外に道がないのである。
処がその限度であるが、此限度たるや大変である。何しろ百倍も二百倍も騰ったのであるから、本当の限度といえば百分の一にも二百分の一にもなっていい事になる。然し、一本調子に下落したんでは経済界の打撃が大きいから時々政府はカンフル注射を行う。それが此間の證券市場へ百億を放出した事である。
これで金詰りの原因と限度が判ったであろうが、次は時機と解決法である。時機は先づ二三年は掛るであろう。その間紆余曲折の相当ある事はいうまでもないが、そのようにして物価が最低になった時が解決した訳で、そこへ向って行進を続けるのであるから、その覚悟が肝腎である。政府に於ても勿論物価と睨み合せて、漸次貨幣を縮小する事は勿論で、経済界に与える打撃を最少限度に止めつつ通貨を圧縮するのが当局の手腕で此点に苦心を要するのである。
然し乍ら、右は国際関係が現在のままを標準としてかいたのであるが万一戦争の如き大事が勃発するとしたら、解釈は大いに異う事になるので、此点も考慮に入れておく必要があらう。
(光新聞四十七号 昭和二十五年一月二十八日)