医学談片集 或眼科医の話

これは十数年以前、私が麹町半蔵門で開業していた頃の話である。当時東京市内某区の学校医を三十年もしていた或老眼科医が眼病に罹り漸次悪化し、失明一歩手前という時であったのが、一週間の浄霊で完全に治ったので、喜びのあまり教修も受けたのである。

右眼病の原因を訊くと斯うである。彼は数ケ月前入浴の際石鹸の汁が眼に入り非常に痛むので、お手のものの医療を施したが治らない。しかも彼の息子は慶応病院の眼科の助手であったので、最新の治療を熱心に施したが、漸次悪化するばかりで、医師として恥しいのを我慢して私の所へ来たというのである。

それから二、三ケ月経った或日彼は立寄ったので「浄霊はやっていますか」と質いたところ彼は「飛んでもない」という顔付で、斯う語った。

「自分は先生に治して貰った事も、教修を受けた事も、家内にも伜にも絶対秘密にしている。何故なれば、もし医師会へ知れると脱会の憂目をみるからである」との事で、私はただ唖然たるばかりであった。

(光新聞三十四号 昭和二十四年十一月五日)