抑々、人間は何が為に此世に生れて来たものであらうか。此事を先づ認識せねばならない。それは神は地上経綸の目的たる理想世界を建設せんが為人間を造り、それぞれの使命を与へ、神の意図のままに活動させ給ふのである。原始時代から今日の如き絢爛たる文化時代に進展せしめたのも、現代の如き人間智能の発達もそれが為に外ならない。そうして人間なる高等生物は素より、他の凡ゆる生物否植物、鉱物、其他形体を有する限りの凡ゆる物質は霊と体の二要素によって形成されたものであって、如何なる物と雖も霊が分離すれば亡滅するのであるが、茲では人間のみに就て説明してみよう。
抑々人間の肉体は老衰、病気、大出血等に依て使用に堪え得なくなった場合、霊は肉体を捨てて離脱し、霊界に赴き霊界人となり霊界生活が始まるのである。之は世界如何なる人種も同様で、其例として第一次欧洲大戦後英国に於て当時の紙価を高からしめたオリヴァー・ロッヂ卿の名著「死後の生存」であるが、其内容は著者ロッヂ卿の息子が欧洲戦争に出征し、ベルギーに於て戦死し、その霊が父ロッヂ卿に対し種々の手段を以て霊界通信を夥しく贈った、それの記録であって、当時各国人は争って読み、それが動機となって霊界研究は俄然として勃興し、研究熱が盛んになると共に、優秀なる霊媒も続出したのである。又彼の有名なるベルギーの文豪青い鳥の著者故メーテルリンク氏も心霊の実在を知って、彼の有名なる運命観は一変し、心霊学徒として熱心な研究に入ったといふ事は、其方面に誰知らぬ者もない事実である。而も其後フランスのワード博士の名著霊界探検記が出版され、心霊研究は弥々盛んになったといふ事である。ワード博士に到っては霊界探究が頗る徹底的で、同博士は一週に一回一時間位、椅子に座した儘無我の境地に入り、霊界へ赴くのである。其際博士の伯父の霊が博士の霊を引連れ霊界の凡ゆる方面に対し、具さに霊界の実相を指示教導されて出来た記録であるが、其際友人知己の霊も種々の指導的役割をなし、博士の霊界知識を豊富にしたといふ事である。之はなかなか興味もあり、霊界生活を知る上に於て大いに参考になるから、読者は一度読まれん事を望むのである。
勿論西洋の霊界は日本とは余程相違のある点はやむを得ないが、私は最後に於て、日本及び泰西に於る霊界事象を種々の実例を以て解説するつもりである。十数年前、英国よりの通信によれば同国に於ては数百の心霊研究会が生れて盛んに活動しつつある事や、心霊大学まで創設されたといふ事を聞及んでゐたが、その後大戦の為如何様になったか、今日の実状を知りたいと思ってゐる。扨て霊界の種々相に就て漸次説いてみよう。
(自観叢書三 昭和二十四年八月二十五日)