名医・故入沢博士

博士の説によれば「医者はインチキをやらなければ飯が食えない」との事だが、之は名言である。

何となれば、治らないと知りつつも治ると言わなければならない。判らない病気も判ったような顔をしなければならない。と云う訳であるからあまりに良心的であっては飯が食えないことになる。

尤も之は医者には限らない。世間大抵のことは、多少インチキならざるものはないから、医師のみを責めるのは酷であるかも知れない。

又博士は「医師がなくなれば病人もなくなる」ということを云ったが、之は卓見か否かは見る人の判断に任せる。面白いのは博士の辞世である。

「利かぬとは思えども之は義理なれば人に服ませし薬吾服む」

(光新聞二十三号 昭和二十四年八月二十日)