巻頭言

世界は御承知の如く、時の経るに従ひ、段々物騒の度は濃くなりつつある。何しろ朝鮮の動乱を契機として、世界は一変して了った。米対ソの確執は、緩和する処か、寧ろ段々尖鋭化して来た。今の処米としては、北鮮軍を追ひ詰めて之で一段落つくと思ひきや、逆に中共が躍り出て、いつの間にか用意されてゐた大軍が、一挙に押返へして来たので、聯合軍も大規模に後退し、兎も角殆んど犠牲なしで安全地帯にまで引上げた事は、不幸中の幸ひと言うべきである。然し中共軍も、最初の気勢を鈍らせた事は深い考へがあるらしい。何しろ聯合軍の二十万に対し、七、八十万の大軍を以てすれば、敵を朝鮮全土から追ひ出して了ふ事も、敢て難事ではなからうが、そこ迄行くと米は最後の切札として、原爆を出さない訳にはゆかなくなるだらうし、場合によっては、中国全土に迄及ぶかも知れないといふ危険があり、折角落付きかけた中国も、予測のつかない事態になるか判らない。といふ弱味もあり、加へて亜細亜の十三ケ国が聯合で、三十八度線突破中止の勧告もあるので、流石の中共軍も予定の計画を一先づ中止し、形成観望といふ処であらう。

又米と雖も、聯合軍の数が余りに劣勢で、敵を迎え撃つなどは到底不可能であってみれば、何とか中共軍を喰止めておいて、出来るだけ時を稼ぎ、その間に大々的戦備を整へ、反撃しなければならないのは勿論、形勢次第ではソ聯との正面衝突も避け難い事態になるかも知れない、といふ懸念もあるとしたら、今度卜大統領の非常事態宣言といひ、尨大な軍事予算といひ、東西に於る味方に対する借款といひ、其準備であるに違ひあるまい。その様な訳であるから、結局は世界の二大横綱が、龍虎相争ふ凄惨なる場面が、顕出しないと誰か言ひ得よう。

斯う考へてくると、無防備日本は、一体どうすればいいかと言ふ事で、此見通しこそ現内閣は勿論、国民全体の重大案件である。最近の米紙によるも、ソ聯が日本攻略を目標として已に準備を整へ、虎視眈々たる有様といふ事を報じてゐる。愈々日本の身近に危機は迫ってゐるのである。とすれば吾等も充分覚悟の肚を固めてをく必要があらう。

右の如く、此大難関が吾国を見舞ふ時が来るとしたら、どうすればいいかと言ふ事である。此場合もし絶対神の御加護がないとしたら、到底安心して生き抜く訳にはゆくまい。信ずるものは幸ひなりといふキリストの聖言は、今更乍ら吾等の胸をうつのである。

(地上天国十九号 昭和二十五年十二月二十五日)