結核撲滅の大方策と健康日本の建設

東京市衛生課が、去る昭和九年から二ケ年に亘って大々的調査を行った。其結果によると東京市内の小学生七十二万に対し、結核感染児童は実に二十七万人、三十八パーセントに当るといふ事である。之を知って誰か驚かない者があらふ乎。さうして何故に斯くも恐るべき結核児童が激増するかといふ其真因が、医学上不明であるといふ其点が又懼るべき事である。

最近某紙掲載になる--長谷川如是閑氏の「片輪の文明」という論文があったが、其中に斯ういふ事が書いてある。以下其論文

『私はある結核専門家から-我国に結核患者が非常に多く、而も数字に現はれてゐるのは寧ろ顕著なものだけで、実際の患者数は恐らく驚くべき高率であらふ。元来気候其他の自然条件に於ても、家屋其他の社会条件に於ても、欧洲の文明国に比べてさう悪いとは思へないのに、かうも結核の多い理由が、科学的に充分研究されてゐないために、専門家の間にも往々精神的に病気を克服するといふ-擬似宗教のそれに似た考えを抱くものがだんだん殖える。専門家以外の立場から、我国に結核患者の多い理由について何か考えるところはないかといふ質問をうけた。専門家の研究の及ばぬ事を、素人が考える余地もないが、私は平常そうした現象を片輪の文明といふ事で説明してゐる』

右の如く、如是閑氏の此論文は、頗る面白いと思ふと共に、専門家である医家が、如何に困憊(コンパイ)して悲鳴を挙げてゐるかといふ事が如実に表はれてゐる。科学の分野に於て、特に進歩したといふ医学の実際が、右の如くであるといふのは誰しも不可解と思ふであらうが、実は大いに其原因としての誤謬が伏在して居る事である。それは何かといふと、其根本が末梢的分析研究にのみ固執してゐるといふ事である。

私は曰ふ、結核激増の原因と治癒法の発見は、現在の科学のみでは絶対解決が出来ない事である。然るに-私は此大問題に対って、其根本原因の発見と、其解決策に成功した事を発表したいのである。先づ、結核初期患者を診査する時、其微熱の発生所とも言ふべき場所を見出すであらう。それは淋巴腺及び頸部の付根、即ち肺尖の上表部に数個のグリグリを発見する。其部所を指頭で圧する時、必ず痛みがあるがそれは膿の溜結である。さうしてそれに軽重のある事は勿論であって、それは悪性ほど高熱とより痛みとがある事によってよく判別出来得るのである。

然らば、此膿は如何なる原因によって作為され溜結されたかといふ-それを識る事が根本である。之に対し、第一に挙ぐべきは彼の種痘である。人間が生れながらにして保有する天然痘毒素は、天然痘発病によって排泄せられるのである。それが種痘に由って病気発生を停止せられるのであって決して免疫されたのではない。即ち其毒素は排泄すべき力を失った迄で、言はば毒素は陰性化して体内に残存するのである。第二に挙ぐべきは肉食と薬剤の余毒である。輓近(バンキン)-急激なる欧化主義の結果、肉食と牛乳飲用に由る血液の汚濁に気が付かない事である。又、薬剤の服用及び注射は副作用に依って血液を汚濁させる事である。即ち、或病気を治癒する以上に健康上不利な薬毒の害を残すのである。

前述の如き、天然痘の陰性化毒素と肉食薬剤に由る毒素とそれ等が相集まって、淋巴腺及び肺尖部上表に溜結するのである。元来日本人は西洋人に比して、肉体の浄化力は非常に旺盛である事である。それは西洋人より天賦的に優秀であるからである。西洋人が獣肉多食をしても害が少いといふ事は浄化力が少い為である。西洋人は肩が凝らないといふのもそれが為である。

種痘と肉食と薬剤の毒素は、父母からその子供に遺伝するのは当然である。而もそれに気が付かない結果は、又してもその児童へ其毒素を増加する方法を執るから堪らない。滔々として弱体児童増加の勢ひは停止する事を知らないのである。

然し乍ら淋巴腺と肺尖部の膿結は、医家も承知してゐるであらうが、それを解消する方法が発見されないのである-と言って、今更種痘を罷(ヤ)める事は出来ない-又、肉食牛乳を全然廃止する事も不可能であらう。

然るに私が創成した「岡田式指圧療法」によれば、之等結核初期症状は完全に解消されるのである。而も短時日である事と無医薬であるが故に、費用の僅少なる点と相俟って真に理想的である事である。さうして此療法は、何人と雖も六ケ月以内にて習得されるのである。之に由って全国の弱体児童及び学生の体格改善は、数年にして成功され得る事は敢て難事でないと言ふ事を断言して憚らないのである。

此空前にして驚歎すべき療病術が、最近発現されて日々実績を挙げつゝある事を、一日も早く天下に告知して「健康日本」を造るべく本誌が誕生されたのである。又、医家諸彦(ショゲン)に於ても速かに此療法を研究され習得されん事を望んで歇(ヤ)まないものである。

(大日本健康協会一号 昭和十一年六月十五日)