今回大日本健康協会なるものが生れ、其機関誌として月刊誌「健康」を創刊するに到った。其目的は何であるか-簡単に爰に発表する次第である。
世界も-日本も現在非常時である事に異論はない。愛すべき吾等の国家に於ても国防に政治に経済に、あらゆる機構が革新の産声を挙げやうとしてゐる-非常時はそれの母体であるともいへやうが、茲にそれ等よりも比較にならない程大きな非常時に遭遇してゐる事に、誰しも気が付かないといふ惨事である-それは何か、健康の大非常時のそれである。結核、神経衰弱、弱体児童、近視眼、癌腫等々の其激増振りは、実に驚くべきものがある。
西洋医学は進歩したといふにも係はらず-事実はそれを裏切って停止する所がない、若し医学が進歩したとしたら、病者は減り病院は経営難に陥り、新聞紙から売薬広告は影を潜むであらふ-眼鏡使用者と幼児死亡率の世界一は失墜するであらふし、結核療養所も精神病院も建増しは中止され、弱体児童の減少は誰もが愁眉を開くであらふ。
それがどうだ全然正反対の進行を続けてゐる。之は何が故であるか。言ふ迄もなく医学衛生健康法に一大欠陥がなければならない事である。
基礎医学もいい-黴菌発見も血清注射も必要であらふ。然乍ら目前に跳躍してゐる病魔の克服-之はどうすればいいのだ-泥棒の侵入を防ぐ研究も勿論緊要ではあるが、事実は今泥棒が室内へ入って了って、金品を持去らふとしてゐるのだ-要は当面の事態である。
癌発生の研究に幾十年を費してゐて未だ完成しない。医学はその発生が完成してからが治療の研究である-恐らく其治療完成の時機は何百年先か判りはしまい。今-若し、直ちに凡ゆる癌腫治癒の方法が発見されたとしたら、問題は即座に解決して最早研究の必要はない。
又-医学上難治や不治とされる疾患が、発病後直ちに来る者は全部治癒される-実に治病率百パーセントの療病法が発現されたとしたら人類の幸福はどうであらう-勿論-医学は革命されるであらうし、病無き時代は茲に実現されそれに由る社会機能の幸福への改善は、蓋し予想し難い甚大なるものがあるであらふ。
此-空前な大医術は、今や已に完成して実行の緒に就かんとしてゐる。
(大日本健康協会一号 昭和十一年六月十五日)