結論

以上説く所によってみても、現代医学が如何に根本を誤り、それが終に病気を治すといふ医学の目的に反し、逆結果となって終に今日の如き結核蔓延や病者氾濫の原因となった事である。故に、我国民は一日も速く之に目覚めなければならないのである。それに就て具体的方法として、私の抱懐する所を左に述べてみよう。

先づ、早期診断を一日も速く取止めるべきである。之は曩にも述べた如く、潜伏結核と雖も、九十パーセント以上は知らぬ間に治るのであるから、何を苦しんで多額の費用や労力を費やし、結核者を発見する必要があるであらうか、そうして結核程、精神作用が敏感に影響するものはないのであるから、知らない知らせないといふ事ほど良い事はあるまい。従而、知らせる事の方が、知らせないより効果ありとすれば、今日の如き結核の増加に国家は悩まされずに済む筈であらうからである。

又ツベルクリン注射や血沈、レントゲン写真、喀痰の顕微鏡検査等は、曩に詳説した如く、結核とは直接関係のない方法であるに拘はらずそれを採用して、何等自覚症状のない者を結核患者扱ひする事の、如何に誤謬であるかを知るであらう。そうして絶対感染の憂なき結核菌に対し、パスツールやコッホの如き、数人の唯物的医学者の説を絶対と盲信して、我国民の貴重なる生命に応用するのであるから、寔に恐るべき事と思ふのである。

そうして医学の最も悪弊とする所は、余りに学理に捉はれ過ぎる事であり、厳正なる批判を忘れてゐるかとさへ思はれる事である。即ち、学理を以て第一義となし、実際を以て第二義と視る傾向である。然し乍ら医家は曰ふであらう。医学に於ての手術と注射の効果を見よ-と、私はそれに対して言ふのである。成程、種痘も六百六号も種々の伝染病予防注射も、扁桃腺や盲腸の手術も確かに効果はあらうが、それは一時的であって、決して永久的ではない。二年三年乃至五年十年は効果があっても、其後に到って徐々に悪結果が発生し畢に重難病の原因となり、夭折の原因となるといふ事は、幾多の事実が證明し、又私が幾万の患者を扱った経験によってみても明かである。

今更、呶々(ドド)を要するまでもあるまい。医学的施設が益々完備し、強化さるる事と正比例して、国民の体位低下、人口増加の減退、結核の氾濫等の益々甚だしくなるのは、何よりの證左である。これ故に、此儘推移するに於ては、“大和民族の滅亡”といふ、破局的事態が来ないと、誰が言ひ得るであらう。何となれば文化民族、特にフランス、英国等に已にその萌芽が表はれてゐるからである。彼のフランスの人口減少は周知の事実で、今次大戦の敗因もその為であるが、英国も亦今日は仏蘭西(フランス)の跡を追ってゐる。昭和十八年四月十八日発行の毎日新聞に左の如き記事がある。

最近に於ける英国人口調査委員会の報告によれば、英国が漸減する人口増加率を喰止めるばかりでなく、更に之を上昇させる適切な手段を講ぜねば、英国の中核を形成するイングランド及びウェールズの人口は、六十年後に於て、現代の四千六百万人から二千万人以下に激減するといふのである。これはウィリヤム・ビヴァリッヂの如き人口問題の権威をはじめとして、英国の学界も大体右の報告を肯定してゐる。

又チャーチルは、千九百四十三年三月二十一日の放送演説において、特に人口問題をとりあげ「三十年乃至五十年さきを見透す場合、一番深刻な不安の一つは、英国における出産率の低減である。今後三十年内に現在の傾向が改まらなければ、現在より少い労働人口並に戦闘人口で、殆んど二倍の老人を扶養し、保護しなければならぬであらう。五十年後には事態は更に悪化するに違ひない。凡ゆる手段を講じて現在よりも大きな家族を維持するやうに奨励する必要がある」と述べた。

次に昭和十八年六月三日の読売報知新聞に左の記事が掲載されてゐた。

英国の出産激減 内相 国家衰亡を嘆く
「大英帝国衰亡の兆は出産率に著現してゐる」と内相ハーバート・モリソンが最近ロンドン育児学校協会の展覧会開会式席上で率直に叫んでゐる、彼のいふところはかうだ。イングランド及びウヱールズの今日の人口は四千百万人であるが、そのうち子供の数は人口僅か二千四百万人に過ぎなかった一八七六年当時の子供数と同じである、ボア戦争時代においてすら前記二州の子供数は現在より百五十万人も多かった、目下の情勢がこのまゝ続けば今世紀末には英国の人口は半減し、しかもその半数は六十歳以上の老人となるであらう、かくして英国は滅亡してゆく、今にしてこの事態が改変されないならば最近喧しい長期に亘る各種の復興計画も白昼夢以上の何ものでもなくなるであらうと、出産率減退に対するモリソンの嘆きは 自ら自国の運命を予言したものといふべきであらう、何故なら今次大戦を媒介として出産激減が啓示するイギリスの歴史的終焉は早決定的事実であるからだ。

そうして英国に於ては、結核も伝染病も理想の如く減少したるに不拘、右の如く悲観すべき状態に悩みつつあるかといふ事を考へなくてはならない。勿論種痘をはじめ、あらゆる医学的方法による逆効果に外ならないのである。然るにいま日本は右と同様の医学的方法によって解決しようとしてゐる以上、軈(ヤガ)ては英仏等と同様の悩みに苦しむ時代が来ないと誰か言ひ得るであらう。

而も現在の我日本は如何なる事態に直面しつつあるか、いふ迄もなく、前古未曾有の大戦争を戦ってゐる。その最も焦点をなすものは勿論戦力増強である。そうして戦力増強の根幹をなすものは、何といっても国民体力の増強である。故に、体力増強に対し、凡そその反対の結果を生みつつある所の西洋医学的施策に対し、此際一大巨眼を開いて徹底的に検討しなくてはならない。もし私の言の如くであるとすれば、茲に一大英断を下さなければならない事は言ふまでもあるまい。

此意味に於て、政府は固より専門家並に世の識者に向って、私は此小冊子を以て、一大警鐘たらしめやうとするのである。

(結核の正体 昭和十八年十一月二十三日)