再び借金を論ず

私は先頃借金是か非かという論文を本欄に載せたが、未だ言い足りない点があるから再び書くのである。というのは現在の世の中を見ると、借金の為に善い結果よりも悪い結果の方が多い事実である。そうして近頃の如く自殺者の多い事は今迄見ない程で、而もその原因の大方は借金の為とされている。勿論青年男女の自殺や情死は殆んど痴情が原因であるが、中年以上のもの特に相当社会的に知られている人なども、殆んどは借金が原因とされている。

此間米国から来日した名は忘れたが某有力者の談話中に斯ういう一節があった。「日本の実業界を視察して一番驚いたのは余りに借金の多い事である」と、之にみても判る通り現今は猫も杓子も借金のない者は殆んどあるまい。成程戦争であの通り叩きつけられた揚句であるから復興するにも無一文では不可能で、借金によらなければならない事は判るが、多くは必要以上の借金をする、それがいけないのだ。

大体日本人はどうも虚栄が多過ぎ見栄坊である。此点も原因中の主なるものであろう。此見栄坊が祟って少し調子が良いと思い切って拡張する、じっくり落着いて考える事をしない、勝ちて兜の緒を締める格言などは忘れて了う、勿論理外の理などという事も知らない、ただ理屈と算盤に合い儲かりさえすればいいという、いわば刹那主義的で、大胆を通り越して無謀に突進する癖がある。要するに実業家であり乍ら、やる事は乗るか外るかの投機である。

処が世の中はそんな甘いものではない、凡そ計画通りにゆかないのが常道である。というのは目紛しい程変る世の中とて、最初の見込とは予想外に違うものである。何よりも今日の金詰りがそれで、今困っている人は、最初の計画当時と余りに違う現在に驚いているに違いない。

衆知の通り、今日数多くの工場の閉鎖、不渡手形の激増、労銀の遅払、滞貨の漸増、取引の不円滑等々は固より、一時景気の好かった高利貸ですら、最近は気息奄々(エンエン)として倒産する者さえあるにみても、如何に金融逼迫の甚しいかが判るのである。右の如き事実によっても最初の世の中の激しい変り方を算盤に入れないからである。

以上の如くであるから今日の金詰りを緩和し、現在の難境を切抜ける唯一の方法は、従来の頭脳を切替える事である。即ち借金をしない、無理をしない、焦らない事の三箇条であって、何よりも前途を低く見る事である。言うまでもなく、出来るだけ緊縮方針で放漫にならないよう戒める事で、それより外に適確な道はあり得ないのである。

今一つ大いに注意したい事がある。由来日本人位他力本願の強い国民はあるまい。之が最もいけない。見よ、少し大きな事業になると政府の援助を求めたり、補助金を貰いたがったりするかと思えば銀行から借りなければ事業は出来ないように思う。大会社などは少し好い時は配当を多くし、社内保留が少ない為無暗に社債を発行したがる。今日現に大きな問題としている外資導入の如きもそれである。処が此外資導入に対し、米の資本家が遅疑逡巡しているのは何が為であるかを考えてみるべきで、全く日本の経済界が堅実味に乏しいからである。随而、日本が外資の必要がないという状態になれば、米国の方から進んで金利は安くてもいいから、金を使って貰いたいと言って来るに決っている。その機微な点に気がつかなければならないのである。

最後に言いたい事は、今後日本の経済はどういう進路をとるかという事である。言う迄もなくデフレ時代に入るのだから、緊縮方針を守り、堅実の上にも堅実で行かなければ乗り切る事は困難である。又別の話だが、農家にしても近来一時の農村景気はどこへやら、今は非常に窮迫している事実である。之等も農民の経済知識の不足からでもあるが、為政者の無能な為前途の見通しが着かず、今日ある事に警告を怠ったからで、政治家にも一半の罪ありというべきである。

右によっても明かな如く、凡ての事業は、借金政略で最初から大きくやる事がいけないのである。どこまでも堅実に小さく始めるべきで、どこまでも自力本位である。随而他力を蔑視し彼の「天は自ら助くるものを助く」という事を信条とし、焦らず撓まずコツコツ主義で努力を重ねるとすれば必ず予想外な好結果を得らるるもので、之は私の生きた経験から得たものであるから間違はないのである。

右は私が長い間借金で苦しんだ体験の結晶で、借金皆済後、一生涯借金をしない事を心に誓って今日に至ったのである。果せるかな、それ以来予想外の好成績を挙げている。第一借金がないと心は常に明朗であるから頭脳も良く、思わぬ良い考えが浮ぶものである。よく「笑う門には福来る」とか「憂えは憂えを生み、愚痴は愚痴をよぶ」などと言うが、全くその通りで、心が裕かであれば物質的にも豊かになるのは当然である。本教が世間から非常に経済上恵まれている事を実際より高く買われているのは、借金をしないからで、支払渋滞などがない為もある。

以上の如く長々と借金の非なる点をかいたが、之を要するに、全然借金をするなというのではない。根本は自力本位で借金は最少限度に止める事、此二箇条を守るだけである。そうすれば焦りも無理も必要がないから、一切は順調に進み、楽々成功する事は太鼓判を捺すのである。

(救世五十号 昭和二十五年二月十八日)