栄養食

医学上、栄養に就ての解釈は、試験管的研究によって帰納せる所を以て、そのまゝ人間に応用してゐるのである。そうして私の研究によれば、栄養食摂取の結果として体重が殖えたり、血色が好くなったりするので是と信じてゐるのであるが、実は右の如き成果は一時的であって、其後に到って体力が衰へるといふ事に気がつかないのである。故にもし栄養食が、医学でいふ如く効果あるものとすれば、常に美食を摂る所の上流階級程、体力強盛でなければならない筈であるに係はらず、事実はその反対であるにみても、その誤りは明かである。其他農村青年よりも都会青年の方が、如何に体位が低下してゐるかといふ事も、徴兵検査の成績によって明かである。成程農村人は労働をするから体位が優ってゐるといふ理由もあらうが、私は粗食である為といふ事の方がより大なる原因と思ふのである。

又医学に於ては、ヴィタミンとか蛋白質、含水炭素、アミノ酸、グリコーゲン等の栄養素を云々するが、之等も大いに誤ってゐる。それは之等栄養素を体内に入れる時は、反って体力を低下させるのである。何となれば右の如き各種の栄養素は、人体内の機能それ自身が作出するものであるからで、決して体外より補給すべきものではないからである。故に仮し体外より補給するとすれば、その作出機能の活動の余地がなくなる為、その機能の低下するのは当然である。元来人体内の機能は相互連帯であるから、一機能が衰へれば全体の機能も影響を受けるのは当然である。此意味に於て、より完成せる物程機能を弱らせる訳であるから、今日の栄養学が如何に誤ってゐるかを知るであらう。之等に就て拙著「結核問題と其解決策」中に詳説してあるから、参酌されたいのである。

(結核の正体 昭和十八年十一月二十三日)