緒論

私は現下国を賭しての大戦争に直面しつつある我日本の現状を目のあたり見るに於て、到底晏如(アンジョ)たり得ない大問題がある。近代戦は消耗戦である事は今更いふまでもない。官民共に生産の増強に渾身の努力を傾けつつあるのもそれが為である。然るに此戦力増強に対し、それと凡そ反対結果を来す処の施策が現に行はれつつあるといふ事であって、実に信ずべからざる程の驚くべき事実である。而も国家庇護の下に否国家自身が奨励しつつあるといふのであるから、何人と雖もその真相を知るに於て、驚愕せずには措かないであらう。それは国民一般の健康に関してであるが、私は特に戦力増強の最重要部門である産業戦士諸君及び学徒諸君即ち青少年層に最も蔓延せりといはるる結核問題であって、爰に之を論じようとするのである。

抑々此問題は、相当以前から撲滅の目的を以て官民共に凡ゆる方策を講じつつあるに拘はらず、今に至るも所期の効果があがらないばかりか、寧ろ悪化の傾向さへ認めらるるといふのであるから、此際徹底的に解決しなければならない事は今更言ふまでもない。

それに就て、私が二十余年に渉っての研究の成果として発見し得たものは、現在行はれつつある結核予防対策なるものが、実は結核を増加する方法であるといふ事である。それと共に、私の発見した方法を以てすれば、結核撲滅の目的は完全に達成なし得るといふ事も告げたいのである。従而、此事実を政府は固より専門家並びに一般同胞諸君の一人にても多く知らるる事を望むと共に、戦力増強の国家目的に対し、些かなりとも貢献するを得れば幸ひなりと思ふのである。

(結核の正体 昭和十八年十一月二十三日)