吉田さん

私は二十年位前、笑冠句会という会を主催していた事があって、今でも忘れる事の出来ない名句として、左のような句があった。

『馬鹿野郎よく考えりゃ俺の事』処がこの句が今度の吉田さんの問題に、実にピッタリしているような気がするのである。それは何といっても今度の問題の直接動機としては、アノ“馬鹿野郎”の言葉である。それから波乱が捲起り、遂に今回のような事態に立至ったのであるから、今の君の心境は右の句そのままであろうと思う。茲で言いたいのはアノ時潔く謝罪と出た方が、或は余程緩和されたかもしれないと思う。併し中には馬鹿野郎位の言葉をそれ程大きく取上げるのは大人気ないという人もあるようだが、仮にも一国の総理大臣であり、議会の神聖を汚すと共に、国民の代表者を罵る訳で、国民感情も傷つけられる以上、簡単に済まされないのは当然であるから大きな問題になったのであろう。

序でに今一つ言いたい事がある。それは人間は時とそうして己れを知る事が肝腎である。というのは花でも一度咲けば必ず散るに決っている。そこで吉田さんもアノ講和使節の頃が花の満開であったのである。それはその時を契機とし段々下り坂になって、遂に今日の様になったにみてもよく分る。知らるる通りその後の総選挙で頭数が減ったり、内紛が次から次へと起るというように、人気の下り坂になった事は言う迄もない。従って今度の総選挙の揚句第二党にならないと誰か言い得よう。これによってみても政治家は右の点を洞察してから、出所進退を決めるべきであろう。

又歴史を見ても分る通り、随分偉い人で一時はヤンヤと云われても、それが槿花(キンカ)一朝の夢と化し、春過ぎて夏から秋の凋落期になるような運命は例外ないといってよかろう。昔からの英雄の末路の殆んどはそうである。としたら人間得意の時こそ最も警戒を要すべき事を、熟々思われるのである。

(栄光二百一号 昭和二十八年三月二十五日)