医学断片集(二十一) 薬と名の付くものは全部麻薬なり

今日人世は麻薬というと、非常に恐ろしいものゝように思っているが、実は薬と名の付くものは、全部麻薬である事の意味をかいてみるが、之は誰も知る如く初め麻薬を用いるや、頭脳は明晰となり、爽快感が起るので、段々癖になって了うので、之が中毒である。処が実は凡ゆる薬も同様であって、只麻薬と違う処は、麻薬は即座に効き目があるが、外の薬はそうはゆかないで、言はゞ長持がする只それだけの異いさである。風邪でも結核でも、胃病、心臓病、何でも彼では理屈は一つである。従って現代人の殆んどは、軽微な麻薬中毒に罹っているといってもいゝ位であるから、病気に罹り易いのである。

そうして面白い事には、近頃よく斯ういう話を聞く、それはアノ薬は以前は非常によく効いたが、此頃効かなくなって困って了うというのである。之は全く薬の中毒患者が増えた為であるが、それに気が付かないだけの事である。でなければまさか人の方が以前と異る体になった訳ではあるまいから、全く医学の盲点を物語っているといってよかろう。

(栄光百七十四号 昭和二十七年九月十七日)