医学断片集(十八) 赤痢菌

吾々が常に不可解に思っている事は、近頃のように赤痢が流行し、各地に患者が続出するので、当局者は伝染系統を調べるに大童になっているが、吾々には此意味が分らない。何となれば此病気の原因が、一人残らず伝染するものとしたら、伝染系統を突止めるのは容易でない事は勿論で、或程度以上は不可能であろう。今仮に川水などに菌のある場合、本当に徹底するとしたら、沿岸の住民悉くを調べなければならないから、費用も手数も大変なものになろう、それ迄にして一番最初の患者を探し当てたとしても其患者は誰からか染(ウツ)ったに違いないから、其先の誰かを探し出さなければならないし、又其先の先の誰かを追求しなければならないと言うように限(キリ)がないから、実際上の間に合わないのは勿論で、全くナンセンス以外の何物でもあるまい。

では茲に此真相を知らせるが、成程赤痢菌は伝染はするにはするが、一番最初の患者の菌は其人間から自然に湧いたものであって、此病気はいつもいう通り、頭の毒血が排泄される浄化作用であるから、健康上寔に結構なものである。従って自然に放っておいても必ず治り、絶対に生命の危険はないものである。

(栄光百六十八号 昭和二十七年八月六日)