世界的丁髷時代

現代人が近代文化の恩恵を蒙っており、凡ゆる点に於て、生活上どの位安心と利便を得ているか分らない程である。とはいうものの殆んど想像もつかない処に、大きな不安の原因が伏在している事に気が付かないのであるから、困ったものである。万人が若し此真相が分ったとしたら、一大驚愕と共に眼を覚まし、茲に真の文明が生れ、人類は無限の幸福に浴する事となろう。では其不安とは何かというと、何よりも医学衛生に関する面であって、現在各国共結核をはじめ、各種伝染病其他の病気に悩まされている事実である。それが為日常生活に於ても、ヤレ何の食物は栄養があり、ビタミンを含んでいるから食えとか、何は消化が悪いから胃を毀すとか、食過ぎは毒だとか、左程食いたくもない物でも薬だから喰えとか、ヤレ鉄分を含んでるからいいなどと、其煩わしい事夥しい。何しろ盲目的に医学を信用し切っているのだからどうしようもないのである。それが人民ばかりではなく、政府も同様であるから、常に奨励までしているという訳で、此有様を吾々からみれば其馬鹿らしさに呆れるばかりである。

いつも言う通り、ビタミンの多い物を食えば、体内のビタミン生産機能は退化するし、栄養を余り摂れば逆作用によって身体は弱るし、消化のいい物やよく噛んで食うと胃の活動が鈍って胃病になる。というように何から何迄反対の事を行っている。そうかと思うと外出から帰ると、ヤレ手を洗え、含嗽をしろなどと言うが、此面倒臭さも悩みの一つで、而も何の意味もなさないで、反って神経質となり、健康を弱らすだけである。又寒い思いをすると風邪を引くから用心しろとか、冷えると身体に障るなどと曰われて、常にビクビクものである。勿論吾々の唱える風邪は万病を免れる因で、人間第一の健康法などとの真理は夢にも思えないし、偶々それを言ってやっても、信ずる者は殆んどない位で、其他女性にしても腹や腰の周りに、何枚もの繊維品を捲きつけるので窮屈でもあり、不格好でもあり、動作の不便も並大抵ではないが、それを可いとしている。又子供を育てるにも毀れ物のように大事にし、一寸した病気でも直ぐ医者にかかり、薬毒をつぎ込まれる。驚いた事には近頃は生れて間もない赤ん坊でさえ、無暗に注射を打たれ、弱らされている有様である。

又予防の為と称して種々の注射をされ、幼児の内から薬毒を詰め込むのだから堪らない。何れは浄化作用が発生し、各種の病原となるのは当然で近来小児結核や小児喘息小児麻痺等が増えているのはよくそれを物語っている。そういう訳で子供を育てるのにも、楽しみよりも心配の方が多い位であるから、何と情ない世の中ではなかろうか、というのは其原因が全く科学文化中毒に罹って、本当の事が分らなくなっているからである。というのは科学の考え方は何事も人為的に行るのが進歩した方法と思い、自然を無視するからである。本来科学で解決出来る物と、自然でなくては解決出来ないものとの区別のある事に盲目だからで、忌憚なくいえば、現在は文化的野蛮時代といっても過言ではあるまい。

私は此文化的蒙昧を目醒めさせようとしては私は絶えず筆に口に、現在努力しつつあるのであるが何しろ長い間の根強い世界的迷信となっていることとて、容易な業ではない。恰度明治維新当時の丁髷連中を済度するのと同様で、今日はそれが世界的に押し拡がったのであるから、猶更始末が悪いのである。

(栄光百五十五号 昭和二十七年五月七日)