医者は果して無責任か

よくおかげ話の中にはお医者の無責任という事を云われているが、之を見る毎に私はどうも気に添わないものを感じる。というのは実際からいって、人の尊い命を預っているお医者様としたら、そんな無責任など絶対あり得る筈はないからである。事実上どんなお医者さんでも、早く治そう、助けてやりたいと一生懸命心を砕き、手を尽すのは当然である。こういう訳で、偶々患者の思うように病気が快くならなかったり、呼んでも来て呉れなかったり、診察に来ても余りハッキリ言わなかったりすると、何だか無責任のように思うのである。

右のような訳だから、御医者さんこそいい面の皮というべきで、又よく聞く事だがお医者さんが“之は軽い病気だから、直き治りますよ”などと曰われるので、患者も其家族も其気持で安心していると、予期に反し仲々治らないので、重くなったり、不幸の結果になる事も往々あるので、悲歎の余り恨んだり、非難を浴びせたりする事も尠なくない様である。又中には大した病気でもないのに、注射をするや間もなく死ぬ事や、生れて間のない赤ン坊に、注射や手術をするので、痛がり泣き喚き、親としては見て居られない程だが、治したい一心で堪えていると、散々苦しんだ揚句、死ぬというような事もあるので、其親たる人は“どうせ命のないものなら、あんな余計な苦しみなどさせて呉れない方がよかった”と、お医者を恨む事さえある。

まだ外に色々あるであろうが、要するにお医者さんは、真面目に一生懸命骨折り乍ら、治らないので、事実患家から喜ばれるよりも喜ばれない方が多いようであるから、全くヤリ切れまいと吾々もお察しするのである。

以上の例によってみても判る如く、色々な職業中、今日のお医者さん位割に合わない職業はあるまい。処がそこに誰も気の付かない点に重大原因があるので、其原因こそ吾々が常に曰う如く、現代医学というものは、治りそうにみえて実際治らないものであるからである。然し今日迄其点に気が付かなかった為、医学は進歩していると思い込み、之で病気は段々治る様になると教育されて来たので、お医者さんもそれを信じ切っているのである。私はいつか医学に騙されている医師という論文をかいた事があるが今も此説の間違っていない事は、事実がよく證明している。つまりお医者さんは医学に迷信していると云ってもよいので、而も当局も一般も悉く同様であり、其本元である学者さえも、やはり既成医学の理論を信奉し、之を進歩させさえすれば、病気は治るものと思っているのである。

此医学迷信こそ、世界中一番大きな迷信であって、之を打破しない限り病無き世界などは痴人の夢でしかないのである。処がこういう吾々の方を迷信呼ばわりをするのであるから、全く主客転倒甚だしいと言わねばならない。何よりも医学と吾々の方との治病の効果を比べてみれば、事実がよく立證している、茲に於て吾々が冀う処は、一日も早く此迷夢を醒ます事でそれが一日早ければ早いだけ、人類は救われるのである。

(栄光百十四号 昭和二十六年七月二十五日)