西洋医学の大誤謬 風邪は、唯一の浄化法

如何なる健康人と雖も、遁るる事の出来ない病気は、先づ風邪であらう、然るに昔から、感冒は万病の因、と言って、非常に恐れるのであるが、之は大変な誤りである。茲に先づ、風邪の原因を開明して、風邪は決して恐るべきものではないばかりか此病気あるが為に、如何に人間は、恩恵に預かってゐるかといふ、私の研究の成果を発表したいのである。

元来人体は、其高等生活器能が、頸部以上即ち脳及び顔面に、集注されてゐる関係上、其器能の活動に要する、エネルギーとしての血液は、常に上部に向って、昇騰し勝ちである。然るに、現代人の大部分は、汚濁せる血液の所有者であるから、其汚血も共に昇騰するので、其場合、頸部以上の高等器能を活動させるには、或程度の浄血でなくてはならないので、其血液輸送門にあたる肩凹部及び頸部に於て、濾過浄清の自然作用に由る、残渣即ち血液中の汚素が、絶えず其部に滞溜するのである。今一つは、肺臓の呼吸運動による空気中の塵埃吸入に因る残渣、それが上昇しては、肩胛部に滞溜するのである。今一つは、病的でない位の、軽度の脊髄カリエスに因る膿汁が脊部の皮下を、通過上昇して、肩凹部及び頸部に集溜するのである。随って、頸部附近は人体に於ける。汚物堆積所とも、言ふべき場所である。

是等、種々の汚物の滞溜は、或程度の量を越ゆる時、必然に重患が発生する順序になってゐる。それを回避せんが為、自然は巧妙にも風邪なる、簡単にして奏効する、浄化作用を行ふ事になってゐるのである。それは、風邪に依って、汚物は溶解し、鼻汁となり、喀痰となって、排泄さるるのである。発熱作用は右の汚物溶解の為である。此理を知れば、風邪は、何等療法をせず放任してをけば、順調に治癒して了ふのである。此事を知らない世人は、不安の結果、種々の療法や、手当を為すのであるが、夫等は悉く、療法ではなく、反対に浄化妨害となるのであるから、療法や手当をする程、治り難くなり、長びく事になるのである。例えば、解熱剤を用ひる如きはそれである、何となれば、汚物を解溶せんが為の役目をする。其発熱を退散させんとするのであるからである。又、無理に汗を取る方法も同一の理で、之も、人為的解熱法であるから不可である。要するに、自然療法が、最も可いのである。此理を教へられて、それを信じた人達は、一文の金も要らず手数も要せずして、医療の時よりも、より速く順調に治癒するので、其意外に驚くと共に、大いに喜んでをり、風邪に対する恐怖から、解放された幸福に、感謝してゐるのである。

又世人は風邪は万病の因と思ひ、風邪に由って、各種の重患を喚び起すと信じてゐるが、之も、非常な誤りである。又、医家もそう信じて、風邪に罹らないやう、実に努力してゐるのであるが、全く真相を知らないからである。そうして、重患に罹るといふ事は重患に罹るべき条件が具備して居って、何時勃発するや知れないといふ時、偶々風邪が其チャンスを作る迄である。病気は一切汚物即ち膿汁滞溜の排泄作用であるから、一日も速く発生した方が、それ丈け軽く済む訳である。随って、風邪によって発病する事は、寧ろ歓迎すべきであって風邪に罹らなければ、幾分遅延して、発病するまでである。故に、発病が遅れれば、後れるだけ、より重症であるから反って不利であるのは、勿論である。

若し仮りに、風邪を予防し得たとしたら、如何、それこそ恐るべきである。それは滞溜せる汚物の浄化が行はれないから、肺臓及び肋膜炎等の疾患を起し易く、尚、頸部附近の汚物滞溜は、送血器能を圧迫するから、上部の高等器官活動のエネルギーに、不足を生ずるので、其結果、脳貧血、眼、耳、鼻等の疾患が起り易くなるのである。近来激増せる、近眼、肺結核、神経衰弱等之が原因が多いのである。

此真相が知識されたなら風邪こそ、実に重患予防としての、大浄化作用であるから少しも恐るるに足りないのである。此故に近来流行するマスクは、誤れるの甚だしいものである。又、年々増加の傾向ある。自殺は勿論多くの犯罪は、神経衰弱者が多いといふ事である。又、肺結核患者は現在、全国に百二十万人ありとせられ、死亡率も、一ケ年十万人を下らないと言ふに到って、此病患の撲滅には、官民倶に、頭脳を悩ましてゐるのであるから、此の私の説の如く、風邪を予防しない事に由って是等の疾患の、激減する事は、断じて、疑ないのである。

(明日の医術 昭和十一年五月十五日)