腹膜炎

之は、水が溜るのと、膿が溜るのと二種あります。此点丁度、肋膜と同じやうであります。そして膿が溜る方がズーと治りいいんであります。膿の溜ったので随分酷いのがありますが、割合順調に治るのであります。

そうして今日、大抵の人は極軽い腹膜炎に罹ってゐるものであります。それは臍の周囲を圧してみて痛くないといふ人は滅多にありません。其所の痛い人は必ず腹膜へ膿が溜って固まってゐるのであります。

水の溜るのは、早期ならよく治るんですが、相当日数を経たものは、容易に治らないのであります。

原因としては、肝臓の周囲へ水膿溜結し、その為、腎臓が圧迫されるから、尿が溢出して腹膜へ溜るのであります。相当溜って時日を経過したものは、深部が化膿して固まってゐるので、斯うなったのは殆んど不治とも言ふべきであります。

そうして、最も悪性なのは、肝臓癌が原因での腹膜炎で、不治であります。ですから、腹膜患者は、肝臓部が痛むかを査べる必要があります。押してみて痛めば、肝臓からの腹膜炎であります。

肝臓が尿素を腎臓に送る場合、癌の為、腎臓への送流を遮られる結果、肝臓から直接腹膜へ尿素を溢流するのでありますが、腎臓からの尿は稀薄ですが、肝臓からのは濃厚である。それが為重症である訳であります。

又利尿剤を続用したものは逆作用が起っておりますから、非常に執拗で治り難いのであります。

腹膜炎は、よく肋膜炎を併発する事があります。又肋膜炎から腹膜炎に移行する事もあります。

腹膜のひどくなったのは随分大きくなります。臨月の腹の大きさよりもっと大きくなります。よく破れないと思ふ位であります。

又、卵巣が腫脹して、腹膜炎と同じやうな症状になります。之の悪性は極端に膨脹し、終に破裂する事がありますが、破裂すれば、汚水が排泄されて速かに治癒するのであります。

此際医療による切開法も効果があります。

(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)