肋膜炎には湿性と化膿性と乾性との三種ある事になってゐる。先づ湿性から述べよふ。
之は肺臓と肋骨との間に膜があり、即ち肺膜と胸膜との間に水が溜るのである。原因は胸部打撲等の為、膜が剥落(ハクラク)する。又は、非常に腕に力を入れる為、又は、自然に発病するのである。医学上にては打診の音と感じで判る事になってゐる。然し肉眼でも胸部、脇腹、背部の左右孰れか腫れがある。又は、触指すれば、患部に熱があるのでも判る。医学では機械で、簡単に水を除って多くは治るが、湿布其他の手当によって反って浄化を妨げ、溜水が漸次濃度を増し、終に化膿性になる場合もある。此際最も悪いのは利尿剤である。最初は尿量を増し溜水も減少するので軽快に向ふが、或時期に至ると逆作用を起し、尿量減少して悪化する。
此病気は盗汗が特徴であるが、之は非常にいいので、盗汗によって病気は治癒するのである。
化膿性肋膜は、前述の膜の間に水でなく、最初から膿が溜るのである。医療では穿孔して、そこから膿を毎日排除するが、なかなか治癒し難いやうである。
乾性肋膜は、極稀にある病気であるが、医師の診断で、乾性肋膜と名付けらるるは殆んど誤診であって、実は肋間神経痛が大部分である。之は胸部の痛み、咳嗽、発熱等の症状で、医療は湿布、注射、服薬等で浄化を停止するから、一時は治癒したやうでも再三再発するものである。
(医学試稿 昭和十四年)