陰性化されたる天然痘毒素は、如何なる作用を作(ナ)すやといふに、人体内の何れかに浄化作用によって集溜するのである。その集溜する個所は、感冒の項に述べたる通りの個所にて、感冒の浄化作用停止が回を累ねる結果、肺結核となるのであるから、近来の結核の増加は、感冒を防止する事により、感冒は陰性化天然痘毒素であり、それは又、種痘の為であるから、結核増加の根本的原因は、種痘といふ事になるのである。
此毒素は独り結核のみではない。凡ゆる病原となるのであって、例へば、結核と同じく、激増しつつある腺病質の虚弱児と雖も、右の結核と同様の経路にて、感冒防止が原因である。又近眼の激増も此毒素であって、之を説明してみる事にする。
近眼は、子供が小学校へ入学してから発病するものであるのはどういふ訳かといふと、急に頭脳を働かせるので、而も、机に向ひ頭を下げつつ勉強する為、後頭部の下辺、延髄附近に此毒素が溜結するのである。近視眼者の右の部を診査すれば必ずそうなってゐる。然るに、視力の活動は一定のヱネルギー即ち血液を消耗するのであるが、その眼に供給する血管が右の部に近き為、溜結の圧迫によって圧縮され、血液の供給が不足する為に視力が減殺され、遠方を視得るだけが不足するのである。医学の方で近眼の瞳は楕円形であるから治らぬといふが、それは結果であって原因ではないのである。
其他、凡ゆる病原となるのであるが、此毒素の外に、薬毒、尿毒-等も説明をし、此三毒による病原を詳しく説明する事にする。
(医学試稿 昭和十四年)