○年○月○日発行の内閣週報、左の如き統計が出てゐる。
(新聞記事不明)
右の如く、文明国の人口は近年に至り、驚くべき衰退の方向に嚮ひつつあって、英国の如きは、西暦千八百年頃は一ケ年百弐十万の増加を見たのが、今日では弐十万に低下し、年々減少しつつあって、英国の統計学者○○氏によれば、千九百五十一年からは、増加率は全く消え、減少が加速度的になるといふ。又、仏国は真の減少に向ひつつ右表の如く、最近は千人に就き三人半といふ事になっており、独逸の如きですら十年以前の○○率に較べて、約半減してゐるにみて、医学の進歩と伴はない反比例の現象は、不可解極まるべき事である。之等の現実に対し、其原因を発見し得ないが為独、伊、我日本も二義的な結婚奨励や出産保護等の方策を採るより致方ない現状である。
今一つの事実を述べてみよふ。先年独逸に於けるオリンピックの競技中、競技の眼目たるマラソンに於て、一等の栄冠は、朝鮮、孫基禎の手に落ちたる事実、又、昨年度日本に於ける体育大会に於て、重量上げの競技が、一、二等共朝鮮人であり、又同年の福岡大坂間に於ける駅伝競争に、朝鮮、台湾組が一等を贏ち得たる如き事実、又、満洲の苦力が、その労働力に於て驚くべき強靭で、到底日本人は敵し得ないといふ事実、又、之は、確実ではないが、推定として支那人の出産率は、千人に付四十弐人、印度人は、三十七人、日本人が昭和拾三年文明国中第一位の高率であるといふ廿六人に数等勝ってゐる事実、之等は何を物語ってゐるであらふか。今に於て、此原因を発見し得ないとすれば、私は千年を出でずして、文明国人はつひに滅亡するであらふ事を信じ得ない訳にはならないのである。然るに、幸なる哉、私は此根源を発見し得たのであるが、其根源が余りにも意想外なる事実で、之を知識せずに於て到底信じ得られざる原因に如何なる人も驚歎するであらふと思ふのである。
(医学試稿 昭和十四年)