西洋医学唯一の治病法は殺菌であるとしてゐる。そうして、其殺菌法としては、現在薬剤と光線応用である。然乍ら、如何なる薬剤を以てしても、組織に無影響で殺菌し得る事は、到底不可能である事は瞭かであるが、他に方法が無い為、止むなく不確実と知りつつ行ってゐるのに過ぎないのである。
奏効不確実だけなら可いが、其殺菌法が、反って病菌繁殖となり、病気悪化の原因となる事は知識しないのであるから、寔に危険此上も無いのである。
然らば、それは如何なる理由であるか、茲に説明してみよふ。
今、殺菌の目的を以て薬剤の服用又は注射をするとする。夫等薬剤を吸収した血液は勿論、殺菌の目的は達し得る筈が無い。只溷濁するのみである。譬えば結核にせよ、薬剤が幾種もの消化器能を通過し、又は、血管を通過するに於て、其変化に由る殺菌力は薄弱になるのは当然であるから、患部へ作用する頃は、如何程減退してゐるか測られないであらふ。此点試験管内で直接殺菌する事とは、比較にならないであらふ。そうして、時日を経るに従ひ、血液の不断浄化によって薬剤は毒素となって、血液から遊離する事になるのである。それが時の経過によって、終に膿汁化し、それが凡ゆる病原となるのである。
然し、そればかりではない。異物に由って溷濁せる血液は頗る危険である。何となれば、其殺菌力が洵に弱いからである。言い換えれば、濁血は病菌の繁殖力に都合が好いからである。斯文の最初に述べた薬剤は病気悪化の原因となるといふ事は、以上の如くである。
(新日本医術書 昭和十一年四月十三日)