病気を治す薬は一つも無い

薬では、病気は治らないといふ事は、医家自身も常に痛感してゐる事であらふ。然し、唯、苦痛を緩和する効果はある。要するに、病気を弾圧するか、又は、麻痺に寄って一時苦痛の感受を軽減し得る丈の事である。薬剤とは、それ以外の何物でもないのである。然乍ら、常に私も言ふ如く、苦痛とは病気治癒工作の過程であるから、苦痛緩和はそれ丈、病気治癒を遅らす道理である。のみならず、それに、薬剤の余毒が伴ふのであるから、二重の不利を受ける訳である。実に薬剤に由る血液の汚濁は恐るべきものであって、それは、如何なる薬剤と雖も、多少の血液汚濁は免かれないのである。

血液汚濁の害としては、浄化力を衰耗させる結果、著しく活力を減退さす事である。故に、其結果として、病気に罹り易くなり、病気治癒の力が弱まるのである。それは、濁血程殺菌力が無いからである。

斯の如く、薬剤なるものは病気治癒を遅らせる事と、血液を汚濁させる害がある以上、他面、苦痛を緩和させるといふ益と比較してみる時、それは、害の方がはるかに優ってゐる事を知らねばならないのである。

然るにも不拘、近代人は無暗に薬剤を用ひたがる。それは全く薬剤の害を知らないからであるから、一日も早く此理を知悉させなければならないのである。近代人の罹病率や短命の多きと病気治癒の遅々たる事実は、少くとも之が原因である事は、争ふ余地が無いのである。

二六時中、薬餌に親しみ乍ら、之といふ病気もなく、といって健康にもならないといふ人は、大抵皆、薬剤中毒患者と言っても可いので、そういふ人は薬剤使用を廃止すれば、漸を逐ふて健康は恢復するのである。

私は大いに叫びたい。国民保健は、薬剤廃止からである……と。

(S・11・4・21)

(新日本医術書 昭和十一年四月十三日)