十六、 光線療法に就て

近来、医療上、光線療法なるものが盛んになって来たが、之に就て、其真相を述べてみる。

光線療法とは読んで字の如く種々の器械又は鉱物の作用に依って放出射光されるのであって、鉱石の方は現在の所、ラヂュウム、エマナチオンのみであるが、器械の方は次々新規の光線を発見作出しつつあるので、例えば、レントゲン、紫外線、太陽燈等である。然らば、其効果は如何と言ふに、私の観る所を以てすれば、効果もあれば、弊害もあるのである。或病気、例えば、瘰癧、癌、結核の如きは孰れも、膿の部分的集溜が原因である。夫等へ向って光線を放射する時は、如何なる変化を起すやと言ふに、其膿細菌は一層の集溜凝結に向って進行を始めるのである。

故に、数字に依って例えてみれば、百の容積ある膿溜は、終に十に即ち一割に縮小さるるのである。即ち、九十だけの膿積は減少するのであるから、それ丈は、病気は治癒されたる理であるから、患者は軽快を感じ、医師も其効果を認める訳である。然るに何ぞ知らん、百のものが十に凝結したのであって、消滅したのではないのであるから、当然、膿の密度を増す結果となるから、非常に固い膿結となるのである。此経過の一番良く判るのは瘰癧であって、小さくはなるが、殆んど石の如くなるのである。斯うなったのは、仮令我指圧療法を以てしても、其石の如き膿結を溶解するには容易ではないので、非常の困難を感ずるのである。

此理に由ってみるも、光線療法なるものは、功罪相半すと言ふ訳であって、恰度、十人から借金をして居ったのを、一人に借金を纒めるのと同じ理屈である。之に依って観るも現代医学は、治癒力即ち、病患を解消絶滅する力は、些かも無いといふ事を識るであらふ。彼の東郷大将の喉頭癌が三拾五万円のラジュウムを以てしても終に其効果なく半ケ年にして鬼籍に入りし実例を視ても能く判るのである。

(日本医術講義録 昭和十年)