十七、 信仰の治病力

世には、博士に見放されたのが、信仰に依って治ったとか、長年の病気で凡ゆる手を尽しても治らなかったのが、某宗教へ入信して治ったとか謂ふ話は非常に多いのであるが、之に就ても、冷静なる批判を下す必要があるのである。

再三述べた如く、現代医学は、病気を治す力は些かもなく、否寧ろ病気の自然治癒に対しての妨害法であるから、偶々或信仰へ入るとか、祈祷者に依頼する時、其取次人は例外なく、医薬の一時停止を求めるのであるから、患者は、何分長い間、幾等医療をしても治らないので、一も二もなく承諾をなし、実行するのである。然るに、長い間、間違った医療服薬を停止したので、病人自体の自然治病の作用が、俄然開始されるから軽快に向ふのである。宛かも其信仰又は祈祷に依って御利益を戴いたかの如く思はれるものである。

然し、みんなが皆そういふ訳ではない。中には実際、神仏の御利益に依って治癒されるのも相当あるにはあるが、右の様な例も又相当多い事は否定し難い事実なのである。是等は本人の儲け物より、宗教や神様の方の儲け物であると言へるのである。

(日本医術講義録 昭和十年)