民主的試験制度

今日医学に於ける試験制度なるものは、日本も外国も大体共通の方法である。即ち医学的解釈による理論と経験によって成る学問的形式の作文を唯一のものとしてゐる。然し乍ら此方法たるや、実際上病患の治癒そのものとの関聯があまりに薄いといふ事である。成程右の試験方法は医術即ち病患治療の基本的条件ではあるが、それだけでは治療技術とはならない。然し乍ら現代医術の程度としては之以上を期待し得られないから、止むを得ざる便法として無意識に持続して来たに過ぎないのである。然るに私が今茲に提唱せんとする新しき試験制度なるものは、最も実際に則する進歩的方法であり、而も民主的制度でもあり、之以上の方法は考へ得られない事である。それは次の如きものである。

先づ受験者は患者に向って直接治療を施すのである。例へば生命の危険の懼(ｵｿ)れない病症として慢性頭痛、神経痛、首肩の凝り等の患者を施療病院等から試験委員が選択するのである。此場合治療時間十分位を限定し施術をなさしめる。幾分なりとも効果を挙げる者を及第者となし、無効果は勿論落第者となす。尚附帯条件として、施術方法が患者に苦痛を与へない事、即ち注射針の刺痛、灸点の火傷痛、強圧の苦痛等は点数が減じ、麻痺剤等による一時的苦痛緩和も不可である。

以上の如き試験制度を採用するとしたら、及第点は真の意味に於ける医師又は療術者としての資格を有する訳である。之こそ最も進歩せる理想的試験制度として何人と雖も賛意を表するであらう。従而従来の如き方法は、官僚的試験制度ともいふべきである。何となれば従来の方法と此私の唱へる方法との可否を民衆の輿論に愬(ｳｯﾀ)へるとすれば、民衆は何れを希望するであらうか、いふ迄もなく後者である事は予想に難くない。

次に今一つ問題がある。それは学位である。衢(ﾁﾏﾀ)の噂によく聞く「蚤の睾丸の研究によって博士になった」とか、又は「数人の博士の診療を受けても効果がなかった」といふやうな事実は何を物語るものであらうか。全く学位授与の方法が妥当でない結果からであらう。如何に優秀な論文を書く医家と雖も、臨床上の技能がそれに伴はなければ意味をなさない。此点からいっても現代医学の試験制度が、如何に現実と遊離してゐるかが知らるるのである。此事に対しても、私は次の如き方法を提唱する。

先づ患者に対し、苦痛の問診以外例へば既往症や近親者の死亡や其病歴等の問診をなさざる事を条件とし、ただ患者の肉体のみを対象とし一時間を限定して診断を下すのである。それによって疾患の原因、重軽、治癒非治癒の予想等を断定する。次いで一週間位の時日を限定し、実地施術を行ひ、其結果診断と略ぼ同様の治癒成績を挙げ得るとすれば、それは診断の適確も技能の優秀をも證明し得るのであるから、学位授与の資格は充分である訳である。此方法こそ実際に即した進歩的方法といへるであらう。

以上の如き試験制度へ対し現代医家は挙(ｺｿﾞ)って異議を唱へるであらう。何となれば現代医学の程度では不可能の一言に尽きるからである。然るに、本医術に於ては可能である事を言ひ得るのである。要するに此新しき試験制度こそは全世界医学界に対する原子爆弾であらう。然し乍ら私は徒らに刺戟を与へやうとするのではない。人類文化向上の為止むを得ず全世界医事に携はる人士に向って此論文を提供するものである。

（天国の福音　昭和二十二年二月五日）