明主様と法大文学部長美術評論家谷川徹三氏との御対談(完) 支那陶器について

谷川氏 この前もありましたが、第五室のはいるとすぐ右手にあった越州窯の鶏頭壺は良い物ですね。今年も去年と同じ所に出てましたが、越州窯では天下の名品ですね。何時見ても良いです。

明主様 それに大きいですから良いですね。

谷川氏 大きくて強くて実に堂々たる物です。

明主様 あれの小さいのはアメリカにもありますがね。

谷川氏 それから郊壇窯というのは、何処の物何処の物と分ってますからね。幾度も問題にした物です。郊壇窯では岩崎さんの香炉、横河さんの鉢ですね。

明主様 そうでしょうね。

谷川氏 南宋哥窯の研究ができたのは近頃ですから郊壇窯の研究はまだだったのです。そう言えば今度新しく出た袴腰の哥窯は良いですね。私は岩崎さんの香炉は見ていませんが、色刷の写真によると、色は私が以前に見たのに非常によく似てます。岩崎さんのを一度手にとって見たいと思っているのです。

奥様 やはり天下の名器となりますとね。

谷川氏 そうですね。しかし横河コレクションと言って随分沢山ありますが、天下の名器となるとそう余計にはありませんね。

明主様 そういう意味では、あるのは白鶴ではありませんか。

谷川氏 私は具体的に並べて見たことはありませんが、或いはそうかも知れませんね。

明主様 そうでしょうね。私は、あそこにどうしても欲しいという物が二、三点あるのですが、なかなかウンと言いません。

谷川氏 それで良い物は黒いですね。

奥様 やっぱり名工が焼くのでしょうね。

谷川氏 それは官窯ですからね。

明主様 王様に気に入られようと思って心血をそそぐのでしょうね。

谷川氏 今郊壇窯として知られているのは、不孤斎の「そう」と岩崎の物と横河コレクションの物ですね。

明主様 そうというのは何ですか。

谷川氏 日本でよく三木手というあれです。

明主様 三木手のあれは良い物ですね。

谷川氏 昔は日本に砧青磁つまり龍泉窯は沢山来ましたが、それで不孤斎が寄附した「そう」というのは砧青磁よりもっと貴重な物だということが分らなかったのです。伊達家にありましたが、伊達家では水差に使っていたそうです。シャーマン・リーという向うとの連絡で来ていた人が不孤斎が寄附した「そう」を見て、この人は気に入った物を見ると舌打ちをする癖がありますが、舌打ちをしてデヴィットのコレクションにもあるが、それよりずっと良い。これならニューヨークに持って行ったら四万弗でも、五万弗でも、好きな値をつけられると言ってました。

明主様 デヴィットには非常に大きなヒビ手がありますが、あれは何ですか。

谷川氏 最初の秦の帝室の宝物だった物が大分ありますが、そういう物については多少問題があるのです。ですからあそこには南宋哥窯としてある物の種類が沢山あります。黄色っぽいのが随分いろいろとありますね。

明主様 しかし青磁というものは難かしいものではないですか。

谷川氏 難かしいですね。私も約三十年くらい焼物をいじってますが、青磁の本当の面白さが分ったのは五六年前からです。難かしいからなかなか分りませんね。

明主様 私も青磁が好きですが、後から後から疑問が出て来ます。

谷川氏 しかし今からしてみますと、支那人が一番珍重しただけあって、やっぱり焼物の頂点ですね。

明主様 そうです。品格がありますね。美術館に出ている鉢は随分ほめられますよ。

谷川氏 修内司窯のですね。あれは良いです。

明主様 去年あった袴腰の青磁も良い物でしょう。

谷川氏 良い物でした。昔砧と言っていた中から、だんだん研究して修内司窯と選り分けるようになったのですが、少し白っぽくて実に品格の高い物です。

明主様 そうですね。細工も、形とか、薄手のキッチリとした所とか、実に良いですね。

谷川氏 そうですね。

明主様 この間名古屋に行った時に鳳凰耳花生のを見せてもらったが、色は良いですが、細工が悪いです。要するにゲテ物作りです。それに片方の耳が取れて、新しくこしらえた物のようでした。

谷川氏 私は手にとって見たことはありませんが、しかしあれは堂々たる物ですね。

明主様 そうです。見映えがあります。

奥様 白鶴の浮牡丹もなかなか良いですね。

谷川氏 しかし私はそういうゴテゴテした物より、無文の方が良いです。

明主様 しかし白鶴の浮牡丹は良かったです。これはちょっと違っていて、非常に強いのです。

谷川氏 そうですか。私ははっきりと記憶にありませんのですが、普通言っているのはゴテゴテしてますからね。

明主様 そうです。ゴテゴテしてます。しかし白鶴のは非常に鋭いのです。その力強さが何とも言えません。白鶴の磁州の龍のはどうですか。

谷川氏 あれは良いですね。アメリカに行っても巾がきいたらしいです。私は長い間写真で見て大した物ではないと思っていたのですが、実物を二つ並べて見ると龍の方が上です。龍の方が男性で、細川さんのは女性です。力強さから言っても違いますね。

奥様 三彩の鷄頭壺も良いですね。

明主様 良いね。三彩では日本一でしょう。

谷川氏 しかし三彩の鷄頭壺とかいろんな物があっても、私は箱根美術館にある越州窯のが第一等だと思います。あの力は大変なものです。

明主様 そうです。それにサビの工合から、古さから言っても良いです。

(昭和二十八年六月二十四日)