今日、我国は戦争の創痍未だ癒えず、凡ゆる部面に渉っての、種々なる困難は其解決たるや仲々容易ではない。曰く食糧難、税の苛斂誅求(カレンチュウキュウ)、金詰り、犯罪激増、住宅難、相変らずの病人の氾濫特に結核患者の対策等々、難問題は山積している。
処が、之等幾多の問題の中、其主眼とする処は、何と言っても食糧問題であろう。今年の米作六千三百万石と見、人口の方は八千三百万人として、一人年一石八千三百万石は絶対量である、とすれば不足分二千万石は輸入に仰がなければならない。としたら其金額は一石五千五百円とみて、一千億円の巨額に上るのであるから、此為の経済のマイナスは大変なものである。而も農地面積は、之以上増やす事は至難であってみれば、我国の特質である人口増加の趨勢を喰止める以外に手段はない。産児制限も其為ではあるが、仲々予期のようにはゆかない。相変らず相当の増加振りである。とすれば此事が我国にとって、最も大きな悩みであろう。
然し乍ら、此難問題と雖も、数年間に而も至極容易に、解決出来得る方策を吾等は有っている。即ち新農耕法である。之を直ちに実行すれば、日本は到底想像もつかない程の幸運に恵まれるのであるが、茲に一大障碍物がある。それは何であるかというと此新農法は、之迄の農業とは全然反対であるからである。それが為如何に此原理を説いても、農耕者は容易に受入れようとしないのである。然し之は無理かもしれない。何となれば、我農民が先祖代々幾百年に渡って実行しつつあった方法を一朝にして放棄する事は出来まい。然しそれは、実は大変な間違いで、一生懸命増産しようとする其方法が、実は減産の方法でしかないのである。
従って只言葉だけでは、急に掌を反えすような訳にはゆかない以上、私は理論と共に実地によって解らせようとし、十数年前から、それを行って来たのであるが、漸次予期以上の驚異的成果を挙げ得るようになり、近来非常な勢いを以て此農法栽培者が激増しつゝある現状であるが、何しろ日本全国に行渡らせるには仲々の大事業であると共に、食糧難の方は年を逐うて切迫の度を加えつゝあるので、此実状をみては到底晏如としては居られない。茲に意を決して大々的宣伝を行うべく、先づ此小冊子を刊行したのであるから、之を読めば理論と実際とがよく判り、農民諸君は固より、一般人士と雖も納得がゆくであろう。従って是非一読の上、一日も早く実行に着手されん事を、希望してやまないものである。
(自然農法解説 昭和二十六年一月十五日)