天狗界(中界)

この天狗界は現界活動である。天狗は男ばかりである。天界、中界、下界とある。中で天狗界は中界であって、山岳地帯にあるのである。絵で見る彼の鼻の高い顔の赤い彼である。天狗の総大将が猿田彦命である。鞍馬山に居るのである。牛若丸は鞍馬山に於て猿田彦命から色々教えられたのである。牛若丸は非常に神様に因縁のある人である。

天狗中に人天、鳥天の二種がある。人天狗は神官、僧侶、学者等がなるのである。是等は良くも悪くもなくて天国へ登れず、地獄へも行かなかった連中の為の中界で、天狗界に入ったのである。

鳥天狗は此の中に又烏天狗と木葉天狗との二種がある。烏天狗は烏がなるのであって、烏は天照大神の御使であると言われる位で、神様に因縁のある鳥である。木葉天狗とは烏以外の他の鳥が死ぬと皆木葉天狗となるのである。猿田彦命は元は第二天国の神様であったが、悪い事をしてその罪により天狗界に落され、天狗界の総大将となったのである。

道了権現、秋葉、半僧坊等は皆天狗である。道了権現は鷲である。天狗界は非常に問答が好きであるところから問答や議論が職業である。問答をして勝った処に位が上って行くのである。又其間に碁や将棋をやる。兎に角勝負好きである。天狗の言葉はサシスセソである。

天狗は翔ける事と、字を書くことが好きである。とても上手な字を書く。天狗は皆高い山に居る。霊力があるから此方の山から向うの山へ人間をやる等造作なく出来る。子供等十里位僅かの時間に運ぶのである。

今迄の霊術者等というのは皆此類である。大霊道の田中守平、隠田の神様、飯野吉三郎等は是である。是の天狗の懸った時は非常に威張るのである。是等も良いことをすれば救われるが、直に威張ったり、悪い事をしたり、女を自由にしたりする為に、神様から天狗の霊を引上げられるので、何も出来なくなるのである。飯野吉三郎が霊が効かなくなったのも此の通りで悪い事をして霊を引ぬかれたのである。

天狗と仙人とは良く似ている。同じ様なものである。仙人とは人間が仙術を覚えるのである。朝鮮には仙人が多いのである。

仙人の中に天仙人、山仙人、地仙人と三種ある。仙人の修行をするには蕎麦粉に、松葉等を入れ、団子(ダンゴ)にして一日五六ケ宛喰い、順次に少くして、終いには一ケ位で充分となり、非常に身軽くなり、山を飛越す等しても少しも怖い事を知らぬのである。この仙人は終には食物無しでも生きて行けるのである。

今でも相当仙人は居るらしい。霞を吸って生きている等という事も事実修行すれば出来るのである。この仙人となるには何処かに大先生がある。弟子は二人か三人より取らぬが、この大先生について皆習うのである。

平田篤胤の書いた話で寅吉物語は、仙人の話であるが確実性がある。これは寅吉から直接聞いた話であるが随分変った話がある。

天狗は山を穢されん様に守護しているのである。山で死んだり、迷ったりするのは山を穢したので天狗にやられたのである。山に登るには敬虔なる気持で、山の霊気にふれさせて頂くと言う気持で行かなければいけないのである。天狗は東京-大阪間を三分位で行くと言うから驚く。武芸者の飛切術は天狗がやらしたのである。

(昭和十年八月十五日)