瑞泉郷の梗概

現在、熱海の西南、梅園の奥数町の地点に約四万坪の土地を選び、地上天国の模型を造りつつあることは、既に発表した通りであるが、此地を開発するに従ひ、実に何万年前より神が準備されたといふ深い仕組が犇々(ヒシヒシ)と感ぜらるるのである。それは全体の地形の神秘景勝なる事は、専門家も驚歎する処であって、最近八重葎(ムグラ)や潅木茂れる地帯を切拓いた処、それまで音のみ聞えていた渓流が眼前に展開されたのである。

そのすばらしさ、奇巖怪石が見渡す限り到る処に畳々(ジョウジョウ)としてをりその間を縫ふ幾条ものせせらぎや鞳(トウトウ)たる大小の瀑布あって、さながら深山幽谷に在る如く、杖を曳きつつ石を飛び小橋を渡り行く裡に、時の移るを知らず、熱海近郊に斯の如き幽境ありとは誰か想ふべき、土地の人さえ恐らく未だ知らないであらう。

私は、此渓流を青嵐峡一名熱海耶馬渓と名づけたのであるが、此名によっても大体髣髴させられるであらう。而も渓流を挿んで枝振りよき紅葉や楓の茂り合ひ、処々竹林もあり名も知らぬ苔さびた山の木々は程よく点綴(テンテイ)され、渓流の美を生かしてゐる。そのあたり散策する者をして、山気身に沁み心魂洗はれ、塵外に遊ぶ想ひである。

特筆すべきは新たに発見し、名づけたものに竜頭の滝がある。之を飽かなくも眺むる時、数町先に繁華な都市のありとは誰か想像し得よう。全く一大仙境である。附近に遊ぶ処更にない熱海として、旅客の渇を医す重大なるものがあらう。将来絶好の名所となる事は今から期待して誤りはあるまい。

その他、日本式の庭園や洋風花壇、支那風の景観、桜並木、梅花の丘、躑躅(ツツジ)山、牡丹園、菖蒲畠、藤棚等々頗る多彩な花の天国は漸次造らるるであろうから、その都度発表するつもりである。

以上の如く大規模にして、現世のパラダイス的構想は、恐らく空前の企画といってもいいであらう。

(光新聞十一号 昭和二十四年五月三十一日)