阿呆文学(十) 大風呂敷

世間よく大きな事を抜かす奴を、大風呂敷を展げるというが全くそうだよ。故大隈のオッサンは大風呂敷の親玉で有名だったが、拙者からみれば此オッサンなんかは、小風呂敷か合切袋にも足りないよ。いいか驚く勿れ拙者の大風呂敷と来ちゃ地獄で苦しんでいる世界中の人間を、そっくり包んで天国へ、上げてやろうってんだから、大したもんじゃろう。どうじゃ吃驚して腰が抜けたろう。だが斯んな事をいうと阿呆の奴遂々慢心して、頭が変になって、上って了ったんだ。御気の毒なもんじゃというだろうが、それも無理はない、何しろ蟻共が象の足を見たようなもんじゃからな。

処がだ、蟻共よ、お前達は虫の死骸や、食い物の欠片を探しては、エッチラオッチラ穴の中へ、運んで嬉しがっているんだが、今に大水が出て、お前達をみんなブン流して了うから大変だぞ。だから一日も早く、助かる工夫をするんだ。じゃによって拙者も、あんまり可哀想だから、助かる法を教えてやろうか。いいかそれは象の足からドンドン登って、背中の上で暮すんだ。どんな大水が出たって、象の足だけで、背中迄は水が来ないんだから安心だ。だからその時ゃ高見の見物と来て、何と有難い事だと手を合わせて、涙を流して拝む事になるよ、何と結構では御座らぬか。

そうなったらお前達は有難い有難い此通り、アリアリ救われたといって喜ぶだろう。だがそんなアリそうもない事が、アリとは受けとれないと思うだろうが、拙者はアリ得ない事を、アリ得ると有体に言うんだから、アリ来たりの事と思うなよ。アリもしない智慧で考えたって、判り様がアリッコないんだから、必ずアリと信じて、アリッタケの力を出して蟻地獄から這い上り、有難い天国へ上り助かるんだ。今にお前ら蟻虫共よ、有難くて有難くて堪らない事になるんだから、是非そういうようにアリたいと願うだろう。

(栄光百二号 昭和二十六年五月二日)