今日、胃病といふ病気になるのは、殆んど全部が薬の中毒といっていい位であります。消化不良とか胸焼、胃酸過多、アトニー、胃痛などいろいろありますが、原因は一つで、最初は食物がもたれたり、不消化であったり、胃が痛んだり、胸が焼けたりする。然らば、それ等の原因は何かといふと、之は全く食物の分量を決めたり、食事の時間を決める為であります。何となれば、分量や時間を決めた以上、前の食物が消化されない中に食ふ為に、前の分が醗酵し腐敗し、前述の如き胃の病的症状を起すのであります。
でありますから、腹が減れば食ひ、減らなければ食はない主義にすれば、絶対に胃病は起らないのであります。
私は此方法によって永年の胃腸病が治り、今日は頗る健全であります。
此やうな病的症状が起った場合、其原因に気がつき、それを改めれば容易に治るのであるが、誰しも其場合薬を服む。それが抑々胃病の始まりであります。
薬を服むと確かに一時は快くなるが、原因を改めない限り再び起きるので、其度毎に薬で抑へる。其為終に慢性になるのであります。それで胃痛や胸焼や種々の苦痛は胃の浄化作用であるから、放任しておけば必ず治る。それを薬剤を服むと浄化作用が一時停止される。それで一時苦痛がなくなるから、それを「薬で治る」と信じるのでありますが、何ぞ知らん、事実は「治癒を停止」させたに過ぎないのであります。実際、薬で治癒されたなら、最早病気はおこらないはづであるのに、再び起るといふのは「治らない」からであります。
言換へれば、胃自身としては治らふとして痛むのを、治ってはいけない-といふやうに薬を服むといふ理屈になるのであります。そうして、胃がわるいと消化薬を服む、そして消化の可い物を食べるんですが、之が亦大変な誤りで、態々胃を弱くするんであります。何となれば、胃は胃自身の活動によって、物を消化する様に出来てゐる。それによって胃は健全を保ってゐるのであります。処が消化薬を服むと、胃は活動しなくとも済む。薬が消化して呉れるからで、その為胃は段々弱体化する。有閑者のやうになる。そこへ消化のいい物を食ふから、猶拍車をかける訳で、益々胃は退化する。退化するから薬を倍々服む-といふ循環作用で終に慢性になるのであります。そうなると、偶々固い物を食ったりなどすると胃はとても骨が折れる。もう「消化する力」を失ってゐるので、そのまま腸へ送る、腸も胃の影響を受けて弱体化してゐるから、下痢し易くなるのであります。
中には反対に便秘する人があります。之は食物が少量過ぎる為と、胃薬で柔軟化させ過ぎる為であります。
ですから、下痢と便秘と交互にする人がありますが、全く前述の理に由るのであります。
自然に任せておけば、順調に排除されるのを、薬剤によって不正にさせ、苦しんでる人が、随分世間には多いやうであります。
(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)