腸病 (一)腹膜炎

之も肋膜炎と同じく、湿性と化膿性とがある。(乾性はない)湿性は水が溜るのである。非常に膨脹して臨月又は臨月以上に大きくなるのがある。原因は腎臓の萎縮の為、余剰尿が滞溜する為と、膀胱から尿が尿道へ通過せんとする時、尿道口に膿結又は尿結が塞ぐ場合があり、その為尿の排泄量減少する為である。医療は利尿剤を使用するが、之は最初は非常に効果がある事があり、殆んど九分迄治癒の状態が、俄然悪化する事がよくある。それは利尿剤に対する逆作用が起る為である。又穿孔して水を除るが、之も直に溜るのである。其場合前よりも必ず幾分多く溜るのである。故に回を重ねるに従って漸次膨満の度を増し、驚くべき大きさになるものである。斯うなったのは、もう生命は覚束ないのである。

化膿性は、湿性程膨満しない。往々気の付かない位のもあって、症状は腹部を圧すると、処々に固結ありて、痛みもあり、時々痛苦、下痢及び腹の張り、食欲不振、嘔吐感、咳嗽等である。

一番困るのは、急性腹膜の原因となるのである。即ち、急激の浄化作用が起る時、非常な痛苦と高熱を伴ふもので、よく盲腸炎を併発するのである。但し、急性腹膜は青年期に多いので、老人には殆んどないといってもいいのである。之は青年期は、浄化作用旺盛な故である事は勿論である。

(医学試稿 昭和十四年)