三毒

天然痘毒素、薬毒、尿毒の三毒は、病原であるといふ事は、大体説いたつもりであるが、是等の毒素の性質作用等に就て述べてみよふ。然毒は、遺伝性であるから古いのである。此三毒共、其浄化作用の場合、古い程痛苦が軽く、新しい程其反対である。従而、然毒に因る痛苦は比較的緩和であって、尿毒による痛苦は然毒よりも大体強いのである。然し、薬毒に於ては、其痛苦が前二者に比して断然強いのである。然し、薬毒に於ては、漢薬と洋薬とは異なるのである。例へば、漢薬は鈍痛苦であって範囲は洪(ヒロ)く、洋薬は激痛苦であって局部的である。然し孰れも、服薬に因る痛苦は、或程度に止まるものであるが、注射に因る痛苦に至っては、其激烈なる言語に絶するものすらあり、是等は、当事者の恒に見聞する所と思ふのである。そうして、此痛苦とは如何なる原理かといふに、浄化作用とそれの停止作用との衝突の表はれであるから、最も激しい痛苦といふ事は、最も浄化作用の旺盛なる身体へ、最も強力なる毒素によって停止せんとする大衝突であるといふ訳である。此理に由って痛苦の激しいのが、老人でなく青壮年に多いのである。故に、此理がはっきり呑込む事が出来れば、病気で死ぬといふ訳も判るのである。即ち、浄化作用停止による苦痛の為の衰弱が主なる死の原因であるといふ事である。

(医学試稿 昭和十四年)