手術

言ふ迄もない事であるが、手術程悪いものはないのである。然し、医師に言はしむれば、病症に依っては、手術をせねば、万に一つも助からぬといふ患者に施すのであるから、之も亦、止むを得ないとの理由があらふ。然し、私が多年の経験上、手術をしなくてもいい場合、手術をしたり、手術をした為に、反って病勢を悪化せしめ、遂に、死に到らしめた様な実例が余りにも多いのである。手術の為に生命が助かった人より、手術の為に、生命を落した人の方が多いのは、実験上、疑ひない処である。西洋医学も血を出し、肉を切る手術などと言ふ、野蛮極まる方法を用ひないで、病気を治療する様にならなければ駄目である。それに就て、手術療法が如何に誤謬であるかの一例を挙げやふ。

近来、よく、扁桃腺祓除の手術をするが、之等も非常に謬ってゐるのである。其訳は、人間の血液は、絶えず浄化作用を行はれつつ其結果として、血液中の不純物が膿汁となって、一旦頸部に溜積さるるのである。それが、尚も外部へ排泄せんとする時、扁桃腺なる最も好適の出口を求めるのである。故に、扁桃腺祓除の暁は、膿汁は、出口を塞がれたるを以て、淋巴腺又は耳下腺等に、溜積せらるるが故に、却て、扁桃腺よりも、膿汁排泄に非常に困難を来すのである。即ち、淋巴腺へ膿汁滞結すれば、瘰癧となり、耳下腺へ滞溜すれば、中耳炎の原因となるからである。従而、最も簡易なる膿汁排泄機関を祓除して得々たる、現代医学の愚や、実に恐るべきものがある。

故に、手術は、自然の自己治病工作の妨害をする医薬と等しく、折角の自然治癒を妨害して、病気を悪化させるか、又は、より症状の悪い病気に変化させるだけのものである。

(日本医術講義録 昭和十年)